見出し画像

養殖生産管理SaaS -サービス開発の足跡vol3 手応えと未来への布石

vol1では水産加工業での業界参入自体をあきらめ、vol2では養殖業での受発注の業務効率化の論点を解くのをやめた話を書いた。サービス設計の途上で過去の検討も事業計画も捨て、それでももがきながら前を向いて進んでいった辺りのお話が今回の話。

事業計画の再設計

養殖経営の改善を構造的に考えると売上を増やすか、コストを減らすかのどちらかしかない。「問い」を再定義するにあたって、注目したのはコストの視点だ。具体的には餌のコスト。

いつどれくらい餌をあげて、どれくらい効率的に魚を育てられているか。販売サポートから生産管理へ。大きくサービスを振ることになった。

問いが変わると狙うターゲットが変わる。サービスのコア価値が変わる。プロトタイプはもちろん全て作り直し。事業として描いていくロードマップも変わる。当然、考えていた事業計画はすべて作り直しとなった。PLも資金計画もすべてやり直し。

解く問いを変えるということは、それくらい事業設計においてインパクトがある。もうほとんど事業としては全くの別物になる。

ちなみに今考えている事業構想はこちら↓ 
※サービスの狙いはこのnoteに書いている通りなので、今回は割愛

専門家を味方に

問いを変えて、養殖の生産管理のデータ化・DXに舵を切ったことでひとつ新たな問題が発生した。それは自分たちのチームでは「どういう生産管理が望ましいのかわからない」ということだ。

論文を見たり、ブログを読んだりしながら、推測しながらプロトタイプを作り直したものの、生産者の結城さんも僕もどこをゴールと定めて、何のデータを管理すればいいのか確信が持てなかった。

そこで頼ったのが業界で専門的な知識を持つ専門家の方。高知大学で魚類栄養生理学を研究されている深田教授や元月刊養殖ビジネス編集長の秋元さんに構想と悩みを伝えて相談に乗っていただいた。お二人ともリアルの場でお会いもさせていただいたし、深田先生にはサービスの監修もお願いさせていただいている。

再びプロトタイプ改修の日々

やるべきことが決まれば、あとはひたすらプロトタイプを磨くだけ。ひたすらXD(さすがにExcelは無理だった)でサービスを磨き続けた。結城さんとの定例で毎回フィードバックをもらって直す。

その過程でサービスの全画面をさらに4~5周くらいはボツにしている。つまり合計で6回以上、プロトタイプを壊し、毎回新規に全画面を定義し直している。たぶん開発着手前にここまで画面を何度も壊して壊して壊しまくっているサービスってほとんどないと思う。だいたいの業務システムはウォータフォールで作り切ってしまう。

画面を分けて導線が複雑に→詰め込んだ結果ボタンが多すぎて使いづらくなった図

高速PDCAを実現させるためのチーム編成

短期間に何度も何度も画面を捨て、新しく定義して、スピード感をもってサービス定義を進める。これができたのは、自分たちが特殊なチームづくりをしてきたからだ。

僕たちのチームが異色なのは生産者の結城さんにどっぷり中まで入り込んでいただいていること。普通の新規事業開発で、ユーザが開発チームの中にまで入っているケースはかなりレアだろうと思う。

それでもチームの中に入っていただいたのは、残りのボードメンバーの3名が養殖業界に疎く、なりゆきだとプロダクトアウトなモノを作ってしまう可能性が高かったから。

1人のユーザがおかれている状況とそこで生まれている課題に徹底的に向き合う。他の誰でもなく結城さんという1人の人に価値を届けきるということにフォーカスしてサービスを改善できるからこそ、サービスが尖ってきたし、かなり速いスピード感で開発を動かせるようになった。

地に足をつけたプロダクト開発がしたいというこだわりや、ユーザに向き合うというある種の決意表明みたいなものが実はプロジェクトチームの座組み一つに凝縮されている。そしてこのチーム体制を敷けていたことがこのプロダクト改善においては物凄くポジティブに働いた。

養殖現場訪問で得た確かな手ごたえ

結城さんとの毎週の検討と並行して、養殖業界界隈の方ともお話させていただいた。何カ所か養殖現場も実際に見せていただいた。その中でも2022年7月に訪問した高知・愛媛の現場見学はひとつの変化点になった。

まずここまで磨いてきたプロトタイプを見てもらったときの生産者の方々の反応がこれまでの反応とは全く異なるものになった。明らかにサービスが刺さった手応えがあった。詳しくサービスのことを説明しなくても生産者の人に画面をパッと見せただけで「超いい!まさにこういうサービスが欲しかった!」と言ってもらえるようになった。勝負の画面2,3枚だけで「これが欲しかった」という反応が返ってくる。

問いを変える前まではどちらかというと、
「あったら便利かもですね(使わないけどね)」
「まぁ協力してあげてもいいですよ(使わないけどね)」
みたいな反応が多かった。もう明らかにその感じではなくなった。

「かなりいいですね!興味ありそうな人も知ってるから紹介してあげるよ」と言っていただいて他の方を繋いでいただいたり、「β版あるんですか?使いたいです!」と前のめりに好評いただいたりした。

他人に紹介するってかなりハードル高いし、β版だって仕事が増えるんだから使ってみたいという期待が得られなければ断られても仕方がない。それがわずか数分、数画面の操作だけで超えられた。

3社の方にβ版検証をお願いして、承諾率は100%。β版検証の依頼先を5社獲得するという目標も簡単に達成できてしまった(最終的には6社になった)

プロダクトの可能性の模索

他方で、サービスを見ていただいたあとで、エンジニアに言われてハッとしたことが別にあった。

「データを可視化することがゴールになっている」

仮説とプロトタイプの方向性が間違っていないことは確かに証明できた。でもその先にもっと彼らの事業に貢献できる道があるんじゃないか。そこにこだわらないといけないんじゃないかと。

僕らは生産管理のDXを志向しているので、当然データを集めることになる。もしそれが現実のものとなるなら、環境データ(水温や溶存酸素など)と突き合せたり、魚種・餌ごとの生産効率を分析したりすることで、今までは見えていなかった新しい法則や解を生産者の方々に提示できるのではないか。

ビジョンを手書きで描いた図。データを活かすという視点をもってからAIの文字が加わった

それで目を付けたのがデータサイエンスの領域。機械学習やAIを活用することで、何か面白い解が導き出せるんじゃないか、と。おかげで今まで構想していた未来とは違う未来が見えてきた。

今はプロトタイプのブラッシュアップやタブレットの選定も並行しながら、この領域を一緒に考えてくださる同志を集めつつ、データの取り方や分析の枠組みを整理しようとしているところ。

AIの会社の社長、データサイエンスのスクールを運営している会社の社長、Kaggleで金をとった方、大学の先生など、こちらも僕には勿体ないようなかなりすごい面々にお知恵をいただいている。

データ化ができなかったがゆえにタッチできなかった未開の領域がついに切り拓かれる。データサイエンスで解ける、解きがいのある課題が養殖業界には山ほどある。すべての課題を同時に自分たちだけで解き切る必要もないし、オープンイノベーション的に解いていく道も視野に入れて考えてみたい。

この記事の3カ月後の未来。いいこともわるいこともあった。続きはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?