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養殖生産管理SaaS -サービス開発の足跡vol1 事業領域のピボット

ITのバックグラウンドこそあれど、水産業の知識・人脈・経験はすべてゼロで始めた新規参入。最初から一発で正解に辿り着けれるはずもなく、もがきながらサービスを作ってきた。その過程は地道だし、遠回りもしてきた。

おかげで恥ずかしながら、スマートなサービス開発にはなっていない。何度も間違えたし、そのたびに修正を重ねてきた。大きな方向転換(ピボット)も2度経た。今回の記事はそんなサービス開発の足跡の第1弾。

やっていることは地味だし、業界の人からしたら当たり前のこともあると思うけど、サービス開発の過程自体を読者の人に楽しんでもらえたら嬉しい。

一次情報のインプット

「水産業で何か考えてみるか」と前職の同僚と話をしたのが2022年1月。僕も彼も水産業のバックグラウンドは全くなかった。水産業がどういう構造でどんな役割の人がいて、それぞれの領域で何が課題になっているのかすら、知らなかった。ビジネスになりそうな種があるかもわからなかった。

まずは水産庁の水産白書、FAOや農水省の統計データ、各漁協がインターネットで公開している情報、養殖ビジネス(業界専門誌)、書籍などを読み漁った。

しかしそれでも現場の課題が本当に紙に書いてある通りになっているのかは結局のところ聞いてみるのが一番速い。そこでいろんな人からとりあえず話を聞いてみることにした。話を聞くことで水産業の課題にどんなものがあって、その重心がどこにあるのか見えてくるんじゃないかと。

具体的には漁師の方、漁協の方、漁連の方、環境省の方、水産加工会社の方、料理店の方、仲卸の方、ベンチャー・個人事業主の方などから話を聞かせていただいた。

話を聞くだけでなく、実際に市場にも足を運んだ。豊洲や横浜などの消費地市場は一般人への公開日が設定されているので、その日にいくと市場内の店舗で魚が買える。市場の人とも直接話せる。どんなスケール感で物流が動いているのか、自分の目で見た方がその壮大さを実感できた。

情報洪水と構造整理

一次情報を大量にインプットすると、まず情報があふれる。頭の中ですべての情報を処理しきれなくなったので、整理が必要になった。

まず業界構造が思っていたよりも物流・商流ともに複雑だった。流通方法は大きくわけて2種類ある。
1)市場内流通
2)市場外流通

水産業のざっくりの業界構造。いろんな人たちが関わって初めて食卓に魚が届く

市場内流通
出荷者(漁師・養殖業者)が魚を水揚げする各漁港の近くにある「産地市場」と大消費地の「消費地市場」(豊洲・横浜など)の2つの市場でそれぞれ売り手と買い手で取引がされる。さらに仲卸業者が小売業者ごとにロットを分け、各小売店で消費者に魚が販売される。

市場外流通
「産地市場」や「消費地市場」を経由しない取引。具体的には出荷者(漁師・養殖業者)と小売業者や飲食店が直接取引をする契約を結んでいたり、水揚げされた魚をネットで販売したりするようなケースがある。また水産加工(練りもの・乾燥品・缶詰など)を行う場合も基本的には一度、市場内流通からは外れることになる。

※個社によって事情も違うし、特殊なケースもあるので本当はもっと複雑だけど、解像度を上げてしまうとかえって意味不明になる。なので、概観が掴めるようにあえて細かい情報は捨象してある。

解けない領域の見極め

次にその中で解けそうな論点(仮説)を絞りにいった。水産業界ではまだ電話やFAXが残っている。それで「受発注の仕組みをアップデートすることで生産性を改善できないか」という問いについて考えてみることにした。

結論から言えば、この論点は「頑張れば解けそうな領域」と「難易度が高すぎて解けない領域」に二分された。後者は市場内流通(漁師→産地市場→消費地市場→小売→消費者)の領域。当時の自分たちの力では何をどうあがいても正直解けそうになかった。

EDIや受発注システムを作って、彼らの手間を削減したり、購買データを分析したりみたいなことを考えていたが、そうなると仲卸や卸、小売など複数の関係者間でうまく情報伝達ができないといけない。どこか1社だけがシステムをいれても全体の仕組みは変わらない。

全体の仕組みを変えるには各プレイヤーの長を集めて、それぞれの課題や利害を確認し、全員が納得できる解を見つけ、そして合意形成する必要がある。水産業界にコネも人脈もない我々が今すぐに解決しにいく課題としてはちょっと難易度が高すぎる。僕たちは市場内流通を事業検討のスコープから外した。

魚は肉よりも足が早い。注文が入っても、水揚げがなければ届けられないし、条件通りのものが仕入れられなさそうであれば注文を修正しないといけない。状況を速く確実に関係者間で連携したい。そうなると回りまわって電話が最良の手段という考え方もある。

事業領域の仮決めと追加インプット

逆に「頑張れば解けそうな領域」として残った可能性の1つが「水産加工会社」だった。市場外の受発注も多いはずなので「電話・FAXが多いことで業務効率が悪く、生産性が下がっている」という課題をITやデジタルの力で解けるのではないかと考えた。

水産加工事業を営む人との人脈もこれまたゼロだったので、知人・友人に頭をとにかく下げ繋いでもらった。

それでも全然数としては繋がることができず、関東周辺の400社の会社名・メールアドレス・FAX番号などを調べ上げてリスト化し、専用のFAX原稿も400社ごとに作って送信したこともある。FAXはこの時人生で初めて使った。ちなみに獲得件数は0件だった。笑

水産加工業向けのサービス開発を断念

ヒアリング対象の人を見つけるのにも苦労したが、幸か不幸か、この仮説はヒアリングを進める中ですぐにイケていないことが証明された。

水産加工会社は機械設備を安定稼働させることが前提になる。そのため、供給量の上限がある程度見えている。事業上キーを握るのは「生産計画」だ。目標とする物量は1日単位で決まっていて、いかに効率よく物量をこなせるかが勝負になる。

毎日小さいロットを都度都度受注生産するやり方だと生産計画が組みにくいので、年間まとめてある程度大きなロットの受注をしたうえで生産計画を組んだ方が効率がいい。大型注文が取れるなら個々の注文量はある程度読めるし、受発注の頻度も当然少なくなる。

そうすると受発注の手間を減らすという課題はないわけではないかもしれないけど、お金を払うだけの課題にはなりえない可能性が高い。

選択肢は2つ。水産加工会社の違う課題を解くか事業ドメインを変えるか。僕たちは後者、つまり違う事業ドメインを攻める道を選んだ。

約2カ月にわたってアレコレ事業構想を考えてきたが、このタイミングで一旦見切りをつけた。この意思決定に逆に2カ月でたどり着けたのは間違いなく関係者の方々がヒアリングに協力してくださったからだった。

では具体的にどの事業ドメインへ行ったのか。ピボットしてからも一筋縄では行っていないので、そのあたりはVol2でどうぞ!


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