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夢の再生能力!プラナリア

私の専門分野で研究対象の生物は単生類です。しかし、単生類といってもどのような動物なのかなかなか理解してもらえません。そのため、私は同じ扁形動物門に属するプラナリアを説明してから、単生類の説明をします。そんなプラナリアを、最近取り扱ったので紹介します。

和名:ナミウズムシ
学名:Dugesia japonica
分類:扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目サンカクアタマウズムシ科
生息:北海道を除く日本全国の淡水

一体何者?

プラナリアを見つけたいのでしたら、川の上流や水質の良い河川の石の裏を見てください。石の裏に張り付いています。石の裏には、カゲロウの幼虫など水生昆虫も生息しており、プラナリアは水生昆虫を主な餌としています。自然界に生息しているプラナリアは水質の良い河川の指標となっていますが、アクアリウムを趣味としている方にとっては、水槽中に溢れかえる害虫です。また、2007年のデータになりますが、日本では計8種の外来種のプラナリア類が記録されています。私の近所の加古川でもいつのまにか外来のプラナリアばかり観察されています。外来種のプラナリアは在来種と同じ腐肉食者なので、餌の取り合いなどで在来種や同じ腐肉食者の動物の減少を招くかもしれません。
プラナリアの体の作りはとてもシンプルです。腸管と生殖器官くらいしかありません。中学生にこの話をすると心臓(肺や血管などの循環器官)はないのか聞かれます。そもそも、私たちが心臓をはじめとした循環器官を持つ理由は、全身の細胞に酸素と栄養を届けるためです。一方、プラナリアは動物門の名前の通り扁形(=平たい)です。体に厚みがないので、水の中にある酸素が水と一緒に体に染みこむだけで、全身の細胞に酸素が行き渡ります。栄養に関しては、体の中央にある口から全身に腸管が伸びており、腸から直接全身の細胞に栄養が伝わるようになっています。言ってみれば、心臓が必要ない動物なのです。
もう1つ、みんなが気になるプラナリアの特徴といえば三角形の頭にある“目”だと思います。これは杯状眼とよばれますが、ヒトのもつカメラ眼とは異なり、くぼみに光を感知する細胞があるだけの目です。とはいっても、このくぼみによって微妙な光の方向や傾きを感じることができる優れものです。

左が杯状眼。右のちょっと模様がちがうところが口にあたるところです。

再生能力!

プラナリアといえば“再生”というワードが出てくると思います。半分に切断したプラナリアが頭の方からは尻尾が生え、尻尾の方からは頭が生えて、2個体になる実験が有名です。他にも、頭部を半分にすることで、双頭のプラナリアが誕生したりします。調べてみたのですが、プラナリアは販売されているようです。顕微鏡さえあれば、家でもできるのですが注意点をいくつか。

まず、切断する1週間くらい前から絶食させてください。腸管内に食べ物がある状態で切断すると、腸管内の消化酵素が切断面の筋肉にふれてしまうため、体が溶け始めてしまいます。
動画も用意していますが、プラナリアは思っている以上に動きが早いです。ルパン三世の石川五右衛門のように、動いているプラナリアをスパッ!と切ることはおそらく不可能です。氷の上に濡れたガーゼを敷いて、その上にプラナリアを乗せてください。低温により動きが鈍ります。
最後は、15〜20℃くらいに維持した箱?の中で、1週間ほど飼育してください。2個体にもどりますが、確実に再生するわけではありません。私が初めて行った時は、五分五分でした。

飼育には温度が大事です。15〜20℃より高くても低くても死んでしまします。餌は冷凍赤虫とかあげればよいです。
氷の上において動きを抑えるのですが、温度が低すぎたり、作業にもたつくと死んでしまいます。
双眼実体顕微鏡下で切断中
プラナリアにとってはやはり負担が大きいのか、再生できない個体もいます。

プラナリアを研究する意味は?

私たちヒトも他の動物も共通することですが、最初は受精卵という1つの細胞から始まっています。それが分裂を繰り返して、今の体を作っています。私が何を言いたいのかというと、私たちの体は全て同じ細胞でできているということです。しかし、皮膚の細胞と骨の細胞が同じだといわれても納得できないと思います。これは、私たちの体の細胞は、成長するにつれて“分化”という役割分担が行われます。分化が起こった細胞では、骨の細胞は皮膚になるための遺伝子をロックして、骨になる遺伝子だけを働かせます。皮膚に分化した細胞が、筋肉になるための遺伝子の鍵を外して、筋肉になることはありません。けど、もし皮膚の細胞にある心臓になるための遺伝子のロックを外せたら、皮膚から心臓を作ることができ、命に関わる心臓疾患を抱えた時に、ドナーを待つ必要がなくなります。ヒトの体の一部が再生することはありませんが、プラナリアは再生します。プラナリアの再生の仕組みを解き明かせば、もしかしたらヒトの再生のヒントが得られるかもしれません。

再生の仕組み

再生にはいくつか種類があるので、ここではプラナリアイモリを比較して再生の仕組みを説明します。イモリは足が切断されると、切断面の筋肉や骨の細胞が“脱分化”をします。これは、役割を与えられていた細胞が、役割を捨てて、受精卵と同じ状態未分化といいます)になるということです。この脱分化をした細胞は分裂を繰り返して、細胞数を増やしたのち、再び筋肉や骨などの役割を与えられ、足がもとの状態に戻ります。いわば、イモリは「役割を与えられ直す」タイプの再生です。
一方、プラナリアは全身に幹細胞とよばれる受精卵と同じ状態未分化)の細胞が多数存在します。体が切断されると、この未分化な細胞が傷口に集まって新しく体を作っていきます。いわば、「新しく役割が与えられる」タイプの再生です。

上記の内容を相変わらずの乱雑な字でまとめました。

再生には未分化な細胞が不可欠です。そして、京都大学の山中伸弥教授らによってヒトの未分化な細胞であるiPS細胞の作製法が発見されました。しかし、ヒトの体の再生は未だなされていません。これは、未分化な細胞から特定の器官の細胞になる仕組みが完全にわかっていない、もしくは実用化されていないなども理由があります。これ以上は私も詳しくないので、今回はここまでにします。

【参考文献】

川勝正治; 西野麻知子; 大高明史. プラナリア類の外来種. 陸水学雑誌, 2007, 68.3: 461-469.

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