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海の向こうに

私はライフワークとして魚類の寄生虫の研究をしています。北の方にある大学の水産学部が出身で、大学の頃からずっと海に関わる勉強と研究を続けています。寄生虫に興味を持っていたのは中学の時からですが、もとから魚の寄生虫に興味を持っていたわけではなく、本当は医学部に行きたいと思っていました。今でも、高校の時にもっと勉強しておけばと後悔することもありますが、海に関する研究を続けられていることは悪いとは感じていません。

海が好き

中高生の頃は生物部に所属しており、その生物部では夏になると日本海で2泊3日の合宿を行うことが恒例になっていました。磯や岩礁をシュノーケルをつけて泳ぐと、図鑑でしかみてこなかった魚が泳いでいる様子も見れたのには感激しました。学年が上がると授業で生物の分類について学んだことで、地球上には多様な無脊椎動物がいることを知りました。その無脊椎動物が目の前で実際に動いているのは一日中見ていられました。5年間通った海岸なので生息する生物はほとんど観察したと思っていたのですが、大学院生の時に寄生虫の専門的な知識とともに参加した時、色んな魚から寄生虫を見つけました。こんな狭い海岸にいる生物すら把握できないのが海の奥深さかと思います。

ワツナギソウです。水の中では光っているように見えます。

海は広い

海は地球の3分の2をしめていますが、人類は海洋の5%しか理解していないと言われています。ただ、この5%は何の割合なのかわからないので眉唾ですが、海底地形であれば詳細がわかっているのは15%と言われています。海のことが解明されいてない原因として、海全体のうち約95%が深海となっているためです。深海とは、一般的に水深200mよりも深い水深帯のことを指しますが、深くなればなるほど水圧は高くなります。深海の水圧は、深海の調査をする上で課題になっています。先月も潜水艦の痛ましい事故がありましたが、深海のことを調べるために必要な高い水圧に耐えられる潜水艦が必要です。そのような潜水艦を作るのにはかなりの技術が必要になりますし、限られた時間しか調査できないため調査できる場所も限定的です。当然のことですが、地形だけでなく海底に眠る資源や生物のことも全然わかっていません。一言で言えば、フロンティアと呼ばれる場所になるのだと思います。

海は辛い

大学時代に所属していた研究室の教授の口癖が「他人がもってきたサンプルを使って研究をしてもいい。けど、サンプルをとった場所には必ず行くこと。」でした。これを言われた時には血の気が引きました。というのも、その当時私が扱っていたサンプルはベーリング海でとられたものであり、そこに行くには最低1ヶ月、最大2ヶ月の乗船実習に同行しなければならないからです。また、私は水産学部に所属していたことから、大学2年生と3年生の時に大学の実習船で行われる乗船実習がありました。クラスのみんなと大学の船で小笠原に行ったり、見張りや操舵などの操船の手伝いなどができたのはよかったのですが、私はクラス(もしかしたら学科)で一番船に弱かったです。長い時間船に乗らないといけないことよりも、船に乗ること自体が恐怖でした。最初の頃は、乗船実習では波の高い外洋に出るからだと考えていたのですが、その後広島湾の島を漁船で回った時も、奄美大島でダイビングをした時も酔いました。最終的には、体調が万全でない時にジムのプールで泳いでいた時に船酔い症状を引き起こしたことで、自分が水に揺られることが苦手なのだと知りました。幸いベーリング海には行かなくてもよくなりましたが、この自分の性質は海の研究をする上でネックとなりました。

今年のゴールデンウィークにのった阪九フェリーです。大きいのと瀬戸内海の航行ということでよいませんでしたが、お風呂の水の揺れには酔いそうになりました。

でもやっぱり海が好き

体が海に向いていないながらも、海の生物は好きなので研究は続けています。魅力はやっぱりわかっていないことがまだまだあるというところです。先ほど、海に未知のことが多い原因が海のほとんどが深海であるためだと述べましたが、私が研究している魚類の寄生虫は、漁港での釣りや市場にならんでいる魚から新種が見つかることがよくあります。他にも、この地域にはいないとされていた魚が実は生息していたという報告は頻繁にあります。深海まで行かなくても未知の世界が水面の下に広がっているのが海の魅力です。今年は3年ぶりに泊まりがけで海の調査に向かうことになっています。中学生の時の気持ちを思い出して、海に飛び込んできます。


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