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令和版腹の虫?アニサキス

先月末のことになるのですが、臨時で小学校の教員をしている母から「給食の魚の中からでてきたんやけど!」と写真が送られてきました。サケのムニエルからでてきたそうです。ネット上にはアニサキスの食中毒に関する情報はたくさんあるのですが、寄生虫の研究をしていると言うと、「そもそもあれ何?」と聞かれることもあるので、簡単に紹介します。

注意:このあと、人によってはグロテスクに感じる写真があります。ご注意ください。”一体何者?”の途中にあります。

和名:アニサキス(属の名前)
学名:Anisakis sp.
分類:線形動物門双腺綱回虫目アニサキス科
生息:クジラやイルカの腸管内に寄生する寄生虫

一体何者?

アニサキスは“線形動物門”と呼ばれる動物のグループの1つです。名前の通り線(糸)のような形の動物ですが、ハリガネムシは全く別ものの動物です。昔から、ヒトを含めた動物や植物に寄生して害を与えることから研究はなされていました。年配の方であれば、“蟯虫”や“回虫”など聞いたことがあると思いますが、いわゆるZ世代以降は蟯虫検査もなくなったことから、線形動物は縁のない動物となっています。もはや、線形動物や腹の虫の代表はアニサキスなのかもしれません。また、アニサキスというのは属というグループの名前で、現在のところ35種ほどいるようです。その中でも、日本で話題になっているのはAnisakis simplexではないかと思われます。

国立博物館にあったクジラの腸管に寄生するアニサキスの標本です。こんなにつまっていると、宿主にも害がありそうな気がしますが、問題ないらしいです。

アニサキスはクジラやイルカの腸管内に寄生する寄生虫で、彼らには特に害を与えません。それがなぜヒトに害を与えるのかを理解するには、アニサキスの一生を知っておく必要があります。アニサキスはクジラやイルカの腸管内で卵を産み、海中に放出します。海の中で卵からかえったアニサキスの幼虫はしばらく海を泳いで、小型の甲殻類(ミジンコのようなプランクトン)に寄生し、甲殻類の体内で少し成長します。この甲殻類がサバ、イワシ、イカなどに食べられると、アニサキスはこれらの魚介類の筋肉に移動して、殻をかぶって休眠シスト化)します。その後、これらの魚介類がクジラやイルカに食べられ、胃の中で消化され始めると、魚介類の筋肉中から這い出して、腸管に移動します。クジラやイルカの腸管内で、アニサキスは性成熟を迎えて産卵を始めます。このようにアニサキスが宿主を変えるのは、それぞれの宿主の体内で成長できる段階が決まっているからです。昆虫に例えていうと、甲殻類の体内では“幼虫からさなぎ”までしか成長できず、サバやイワシの体内では“さなぎ”でしかいられません。クジラやイルカに食べられて初めて成虫になるといった感じです。

アニサキスの一生をラフにまとめました。

お腹が痛くなる原因は?

アニサキスによる食中毒の原因は、アニサキスのシストを持ったサバやイワシやイカなどの魚介類を生で食べた時に感染するためです。アニサキスにとってみれば、シスト(休眠)状態でいたところ、宿主の生命活動がなくなって、哺乳類の胃液がかかるので、「目的地についた!」と腸へ向かいって行こうとしているだけです。しかし、途中でどうも勝手が違うことに気づき、暴れ回るというのが、アニサキスによる食中毒の腹痛や嘔吐の症状の原因となります。もし、アニサキスが海鳥の寄生虫であれば、ヒトの胃の中に入ってもなすすべなく消化されているでしょう。クジラやイルカという、ヒトと同じ哺乳類の寄生虫であるために、ヒトの体内に入ってもしばらく生きています。そのため、ヒトの体内を動き回ることを可能としています。
Twitterの情報になるのですが、アニサキスによる食中毒は2013年以降増加傾向にあり、春と秋に発生頻度が増えています。2018年の前の年には芸能人がカツオを食べたことでアニサキスに感染したことをSNSで発信したことや、横浜市で集団感染が発生したことで、アニサキスに注意が向けられるようになったことも、アニサキスによる食中毒の増加の原因かもしれません。また、2020年以降は感染拡大防止のための自粛により、魚介類を自分で調理する機会が増えたためとも言われているようです。

魚を食べても大丈夫?

ここまでアニサキスの話をしてしまうと、鮮魚売り場や飲食店で提供される魚介類を信用してもよいのか不安になる方もいると思います。日本においては、アニサキス症の発生を防止するために、厚生労働省が以下のような指示を出しています。
・飲食店などで提供される生の魚介類については、事前に十分に凍結するか、加熱調理するように指導する。(給食の鮭のムニエルはこれに該当するので問題なしです!)
・生食用に提供される魚介類については、必ず凍結処理を行うように指導する。
・販売される魚介類については、販売前に十分に凍結することを求め、販売者に対しては十分な知識を身につけることを求める。
・消費者に対しては、魚介類の選び方や凍結方法、加熱方法などを啓発する啓発活動を行う。
これらの指示により、アニサキス症の発生を防止するための取り組みが行われています。また、アニサキス症の発生が疑われる場合には、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

また、自分で釣った魚を刺身で食べる場合、アニサキス感染を防ぐためには、以下のような対策が推奨されています。
冷凍する: アニサキスの幼虫は、-20℃以下の低温で死滅するため、釣り上げたサバを冷凍庫で-20℃以上で48時間以上冷凍すると、安全に食べることができます。
加熱する: アニサキスの幼虫は、加熱により死滅するため、釣り上げたサバをよく加熱して食べることもできます。ただし、加熱しすぎると、食感や味が損なわれるため、程度を見極める必要があります。
目視確認する: 冷凍や加熱ができない場合、魚の身や腹の内臓部分を目視で確認することも重要です。アニサキスの幼虫は、裸眼で見ることができるため、身や内臓部分に付着している場合は、取り除いてから食べるようにしましょう。

以上の対策を講じることで、アニサキス感染を防止することができます。ただし、完全にリスクをゼロにすることはできないため、十分な注意が必要です。

上の動画のように見えるのですが、これは顕微鏡で15倍くらいに拡大しています。
この章の文章は、ChatGPTに「アニサキスの食中毒に関する厚生労働省の対応」「自分で釣った魚からアニサキスに感染しない方法」を聞いた答えになっています。ほとんど内容を訂正しておりません。恐るべし!

アニサキスアレルギー

私たちの体には「免疫」という病気を引き起こすウイルスや細菌などから体を守る仕組みがあります。この仕組みは、ウイルスや細菌だけではなくダニやスギ花粉や食物などの物質に対しても反応します。この免疫が過剰に反応して、体に症状が引き起こされることを「アレルギー反応」といいます。
アニサキスは消化管の粘膜に侵入する際に分泌物を放出するのですが、この分泌物がアレルギー反応を引き起こす原因物質となり、アニサキスアレルギーを引き起こすことがあります。これは、アニサキスに感染経験のある人が、再度(もしくは複数回目)アニサキスに感染したり、アニサキスを寄生していた魚介類を食べた場合、アニサキスの分泌物にアレルギー反応を起こしてしまうというものです。
現在も原因を研究中ということのようですが、アニサキスを宿している可能性のある魚介類を食べたのちに体調が悪くなったのであれば、嘔吐や腹痛が無くてもお医者さんの診断を受けた方がいいと思います。アレルギーの場合、放っておくと命に関わるので。

今回のアニサキスは医療にも関わることなので、自信のないところがあります(間違ったことを言っていないか)。魚介類を食べて体調が悪くなれば、お医者さんの話を聞いてください。Twitterでも生物の話をしております。不備などありましたら教えてください。


【参考文献】

Nagasawa, K. (1990). The life cycle of Anisakis simplex: a review. Intestinal Anisakiasis in Japan: infected fish, sero-immunological diagnosis, and prevention, 31-40.

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