まえがき

誰かが旅をする物語。いや違う。この物語は、それそのものが旅をしているんだと気がついた。言わずもがな、IT革命は、私たちの生活を豊かにしてくれた。今では、インターネットが無い世の中など想像もつかないだろう。そしてそれは、何も私たち人間だけに限った話ではない。その昔、まだ物語が、完結して初めてリリースされるのが当たり前だった時代。出来上がった物語には、その時点で既に最終地点までのレールが敷かれていた。読者という名の乗客を乗せたその列車は、終着駅へ向かって走ることだけを考えていればよかった。それ以下になることもなければ、それ以上を期待されるということもない。しかし今、インターネットの台頭により、その状況は一変した。良くも悪くも、列車のハンドルを握る車掌は、自らの意志を持ち、レールの有無に制約を受けることなく進む道を自由に選択できるようになった。そうなると乗客達はどう思うだろうか。この列車は本当に我々を目的地まで運んでくれるのだろうか。きっとそう思うに違いない。それについては、先に謝っておきたいと思う。私が操縦するこの列車は、きっとあなたを、あなたが思い描いているような目的地には連れて行かないだろう。目的地を急ぐのであれば、この世界に無数に存在する他の列車の中から一番到着時間が早いものを選んだ方が良い。寧ろ、目的地を持たず彷徨っている人にこそ、勢いよくこの列車に飛び乗ってきて欲しいと願っている。列車を間違えたと思えば、いつでも途中下車してもらって構わない。目的地が見つかったのなら、精一杯手を振って見送ろう。その代わり、あなたがその座席に座り続けている限り、この列車はあなたを乗せて走り続けるだろう。この物語に終わりは無い。それはちょうど、ビートルズの音楽が誰かの心の中で永遠に生き続けているのと同じように、この物語もあなたの胸の内できっと光続けていくことだろう。

hiroyuki fukuda

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?