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冴えない高校生が文化祭で漫才やってみた。


大学でお笑いをやってみたいなと思ったひとつのきっかけがある。
それは高校の時の文化祭。ぼくは特に学校でもイケイケのグループに属して無かったがそんなぼくは文化祭で全校生徒先生父兄の前で漫才をしたことがある。

これがぼくの人生で1番脳汁が溢れた瞬間。
(脳汁っていうのは興奮した時とか快感を得たときにでるドーパミンとかアドレナリン的なものと捉えてもらえれば。)2番目は2019年元旦おもしろ荘収録の1発目のファイヤー。

ぼくの母校静岡市立高校は文化祭が毎年5月末に行われる。

肌寒さがとっくに消え失せて夏が目の前だぜー!と1番ワクワクする時期。

中でも文化祭は3年生最後の年が1番楽しみ。
出店を唯一3年生が全クラス担当するのであのドラマやアニメで観た出店ってもんを自分たちで経営できると思うと興奮した。

しかしもうひとつ興奮する文化祭のプログラム。

それは「クラスTシャツコンテスト」


(※クラスTシャツ通称クラTは、文化祭になると、背中にクラス全員のあだ名がプリントされ、センスのある人がうまいことデザインし個性を出しつつクラスの団結を示す高校生にはなくてはならない文化祭必須グッズ。)

そんなクラスTシャツコンテスト。全校生徒及び父兄お偉いさんが市民文化会館に集まり、各クラス代表者2人が選抜されコンビで全校生徒の前でステージに立ち自クラスのオリジナルのクラスTシャツをPRするイベント。

制限時間2分弱で各々がクラスTシャツの良さをアピールし、1番Tシャツをアピールできたクラスに校長先生から賞が与えられる大会。

毎年文化祭はお化け屋敷、演劇、バンド演奏を差し置いてなせがこれが頭一個抜けて盛り上がる。


そして誰が決めたわけでもなく3年生は全員決まってPRそっちのけで漫才かコントをやるのが恒例になっている。

このプログラムの最高なところはその瞬間面白いやつが勝者というわかりやすいコンテストという点。イケイケの1軍の人が確実に盛り上げることもあれば、芋くさい2軍の人でもネタさえ面白ければ信じられないくらい爆笑が起こり一躍時の人となり、そのジャイアントキリングに毎年感動を覚える。


ぼくは3年生の時これにエントリーした。


これにはちょっとした理由がある。

ぼくの所属しているサッカー部は県大会でちょこちょこ結果を出す部。
だけどぼくらの代は他と比べて飛び抜けて結果が出ないクソザコな代。
しかしイケイケではない純粋に面白いやつが何か多く、毎回練習終わり一旦部室で誰かがハネ切ってからじゃないとなぜか帰り支度をしない笑いにストイックな代。

積極的にギャグをぶっこむやつ。モノマネするやつ。徹底して裏回しに回るやつ。意地悪にただくさすやつ。色々いた。

人見知りなぼくはこの空気に最初マジで馴染めなくて静かに過ごしてたが、徐々にぼくの性格が伝わり始め、いつの間にかポンコツのめっちゃいじられる立ち位置になってた。
めちゃくちゃ天パだったので雑に「うんこヘアー」とかいじられてた。ぼくはそういういじりもふてくされず全力で返してた。つまんないやつと思われるのが1番ダサいと思ってた。

そんなサッカー部のみんなが3年最後の文化祭が近づきソワソワし始める。
せっかくだしこのコンテストおれら出てみないか?という話になった。

ぼくは震えた。
キャパ1000人越えの会場で漫才やるなんて怖すぎる。大体いつもやってる部室のやりとりなんて究極の内輪ノリに過ぎない。

ぼくの全力のデジモン02のパイルドラモンの進化シーン再現を誰が笑うんだよ。

ただぼくは迷った。

もし改めて真面目にネタを作ってみてウケれば学校の人気者になって人生で初めて彼女ができるんじゃないか?

ぼくは2年片想いしてる好きな人もその時いた。特に頭も良くない、イケてないぼくの学校生活の分岐点ここなんじゃないか?

よし、出よう!


学級委員とか生徒会とか人前に出て何かするなんて小中合わせてもほとんど無いぼくだけど、人前で何か表現してみたいというワクワクが勝り、クラスTシャツコンテストへのエントリーを決意した。

相方はサッカー部のやつでも良かったが、そいつは本当に嫌そうだったので同じクラスのテニス部のお調子者杉山(仮名)に頼んだ。

ちなみに杉山は1年生の頃この大会に出て1000人の前でひと笑いもとれず泣きそうなくらいスベリ2度と出ないと富士山に誓ったらしいが、シンプルにめちゃくちゃ気が合うので、こいつしかいないと思って超頼みこんで渋々OKしてもらった。

そっからは大会に向けて漫才の練習。

自分たちのクラスの出店がアイスクリーム屋なのでその店を中継リポートするという漫才コントのネタを一緒に作って練習した。

ぼくがツッコミで杉山がボケ。

ボケの杉山が真面目なリポーターでアイスを食べたらリポートの前に食べ過ぎて吐いちゃって失礼だろとツッコむうんちみたいなくだりだけ覚えてる。

杉山も今聞くとそこだけ記憶にあるらしい。

なんか熱くなってコンテストに向けてM-1のDVDをめちゃくちゃ観返したのも覚えてる。


そして大会当日。

この年もクラスTシャツコンテストは大変盛り上がり、1年、2年と順調にウケていく中ついに3年生の出番がやってきた。

全員一斉に袖から出てきて向上委員会レベル1の集団芸を3年生で披露し、それがめちゃくちゃウケて空気があったまる。

そんな中ついに僕らの出番。
ぼくらは3年1組なのでトップバッター。

「それでは1組からどうぞ!」

司会のガナリでぼくらはマイクの前に小走りで飛び出す。

ぼく&杉山「「どうも〜!!」」

上の階と下の階合わせておよそ1000人という人間を目の前にしたことのないぼくは足がマジで震えた。

声が出るか不安だったが、フットマイクのおかげもあってめちゃくちゃ声が会場に響き渡る。

いけるかも。

そう思い1発目のアイスを吐くくだりを仕掛けた。

ぼくはツッコんだ。

「いや吐くなよ!!!」

緊張を紛らわすかのように技術もクソもない大声で怒鳴るツッコミが本当にタイミングよく入った。

一瞬間が空き次の瞬間、

市民文化会館が揺れた。

マジでうけすぎて音で揺れてた。
それくらいの爆笑だった。
こんな笑ってくれていいの?と申し訳ないくらいウケた。

とにかくボケてはツッコミ、ボケてはツッコミを繰り返し、途中ぼくの中途半端なすべらない話の声優若本さんの声ものまねで大爆発が起き、無事オチて?終了。

この時、生まれて初めてぼくらだけを見てぼくらのためだけに1000人の人たちが笑ってくれてるというあの瞬間がたまらない絶頂を迎えさせ、あまりに気持ち良すぎて泣きそうになった。

この瞬間人生1脳汁が溢れた。
もうこれからの人生これを思い出せば何だってできるんじゃないかっていう。

終わって袖で杉山と、桜木と流川ぐらい気持ち良いハイタッチをしてた。杉山も1年生の時のトラウマを払拭できたのか清々しい顔をしてた。


他の組も満遍なく盛り上がり、最高の形で全組ネタを終えた。

優勝は結局ネタの面白さ度外視の校長先生がTシャツのデザインだけで決めて、見てる人たちもぼくらも若干ざわついたけど、優勝Tシャツをデザインしたそのクラスの男の子が観客席で立ち上がって号泣してたのを見てみんなホッコリしてた。誰も傷ついてないしまぁいっかと。


その後、1000人の前で爆笑をかっさらったぼくと杉山は学校で人気者になり、めっちゃモテたりということは一切無く、マジで何一つ変わらなかった。

練習をビデオに撮ってくれた同じクラスの柔道部の土橋だけが「完璧だった。」とクールに讃えてくれただけ。

やっぱり冴えない奴が爆笑をとっただけで劇的にその後の環境が変わるなんてことはなく、超普通の日常に戻された。


でもぼくはそれでも構わないくらいなんか感動した。自ら出ることを決め、ネタを考えて、それを笑ってもらうことが想像以上に嬉しくて、あんなことをやり切れた自分を褒めてあげたくなった。

そしてあの時みたいに脳汁をもう一回ドバドバさせたい。
あの絶頂があと一回だけでいいから欲しい。
そんな承認欲求ジャンキーになってしまったぼくはその1年後、小学校から続けてたサッカーを大学に入った瞬間即辞め、早稲田大学のお笑い工房LUDOというお笑いサークルに入会した。

正直何も取り柄もなく何かやりたいことも特に無かった自分にとって、あのクラスTシャツコンテストは自力で外のコミュニティまで足を動かさざるを得ないくらい、自分の何かに刺さった。

今はプロとして芸人してるけどいつか売れたらあの静岡市民文化会館で単独ライブをやりたい。

あそこ満員にして、プロとしてネタがウケたら汁溢れてもう泣いちゃうかもしれない。



なんでこの記事を書こうとしたかというと、

松下より前の実は最初の相方だった杉山と先日近所のサウナでばったり会ったのがきっかけ。杉山もあの日のことを覚えていたことにテンション上がった。

あの頃のクラスTシャツコンテストを経ておれは今バイトも辞めて崖っぷちで芸人頑張る人生やってる。杉山は最近どうなのか、聞いてみた。

杉山は高給取りのガチですごい仕事をしてるが、つい半年前、飲み会で泥酔してしまい、気づいたら朝、上ワイシャツ下パンイチの奇抜な格好で恵比寿のコンビニで目覚め町を走り抜け、交番で事情を話し、流石にこれでは電車にも乗れないと相談したら新聞紙を2人がかりで巻かれ、山手線に事情を説明しそのまま山手線に乗り、京王線に乗り換えた瞬間、連絡がいってない京王線の警察に再度不審者として別室行きとなり、中々家に帰れなかったわやっぱ報連相って大事だな。とタバコの煙を燻らせて腹立つ顔で話してた。

こいつ芸人じゃないのにぼくより芸人みたいになってた。


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