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世界に対する考察

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どこへ行くでもなく考えて 遥か遠くまで行っている
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沈黙が宿命になった時代に

沈黙が宿命になった時代に

自然は語らず、ただそこにある。豊穣で汚穢。無慈悲で清浄。規律正しく暴乱。さまざまな顔を見せる一方、私たちになにかを語りかけることはない。押し付けることも命じることもなく、与えることも奪うこともない。無言で不変の塊りから削りとったひとかけに、恵みや災いを感じながら人は生きてきた。

かつて人は至るところに神聖さを感じていた。小枝や小川にきらめく光、高き所(祭壇や神社)に敬虔さを覚えることは現代の私た

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そも終わりなどあるものか

そも終わりなどあるものか

形あるものはいつか壊れるし、命あるものはいつか死ぬ。形あることでなにかを保っているのか、形がなくなることでなにか失われるのか、ヒトの身には分からない。産まれる前になにがあったのか、死んだ後になにがあるのか、ヒトの頭では知りえない。

この世の権勢を欲しいままにした王が、千年後にいったいなにを持つだろう。私たちはなにかを所有することはできない。なにも持たずに産まれ、なにも持たずに去る。ヒトは誰もがた

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夜気に映るは縞状の

夜気に映るは縞状の

地下水みたいな夜気の底を
歌を流し込みながら歩くとき
天蓋に走る干渉縞をありありと感じる

それは意識に写り込んだ無数の精神が
澄み切った喜怒哀楽を泉のように湧かせ
重なり合ってできるビジョン

多様なる世界を掬わんと耕される感性は
ぶつかり合い分かち合いして繁茂する
ひとつの巨大な生き物になるのだ

ゆえ七転び八起きに一心不乱に
どこかを目指して咲こうと思う
善悪の彼岸に誰もが往く

なんの不思議もない達人

なんの不思議もない達人

善意の達人がいて、無関心の達人がいる。感謝の達人がいて、否定の達人がいる。

彼らは人より経験を積んでいて、無数の失敗を重ねている。パターン化していて、無意識で動ける。いつでも観察しており、微小の差異を見抜ける。

得たものを常に返そうとする。機会をすべて活かそうとする。喜んでやっていて、楽しんでやっている。自分のために努力していて、励むのが日常になっている。

特別なことはなにもなく

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願わくば意識に滋味を

願わくば意識に滋味を

意識とは一つのワーキングスペース、内外の環境によって伸び縮みする小宇宙だ。外界から取り込んだイマココの情報によって脳の各部位は(好き勝手に全力で)発火する訳だが、それらをまとめ上げて文脈を見出すのが意識の役割である。

仮定し、発見し、記憶し、帰納し、演繹し、今はいつで、此処はどこで、私はだれかを定める。意識はそういった局在する曖昧な主体、揺らぎながら推論を繰り返す系だ。更新された意識は次の前

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人生にトロフィーを

人生にトロフィーを

「国語の授業」において私たちは問いを手渡され、それに応える過程で自然に読みは深く、広くなる。

答えることに慣れたなら、次は問いを立てる番だろう。単に疑問点を問うことから、幾つもの解答を内包した良問を練るに進んでいく。

読みながら立ち止まって問い、己で答え、人にも問い、より良い問いと答えとを磨くのだ。互いに予祝を贈り合う関係は、実に人間らしい幸福を与えてくれる。

それはビデオゲーム

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祝祭倉庫店

祝祭倉庫店

車を借りて初コストコ。

カーゴでかい! こんなん埋まらんよ、と言ってたのが10品も買えば満杯に。業務用卸売なので、チョコでも肉でもキロ単位なのです。

頭上まで積み上げられたモノの巨大な森を進み、一抱えもある肉や菓子なぞをわっしわっしとカゴに入れる。そこには豊穣の楽園に迷い込んだよな原始的快楽があります。

かくも巨大な会員制倉庫店で、馴染みのない海外ブランドや見慣れた品のでっかいパ

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円環を巡る問い

円環を巡る問い

宇宙で起こる素敵なできごとのひとつに星の消滅がある。

あの太陽やこの地球がきれいさっぱり消えてしまうのだ。どんなプロセスを経るのか、ちょっと地上の人間のスケールでは想像できない。

銀河を外から眺めてみると、百年にひとつふたつ、まばゆい輝きを放って四散する星がある。何十億年も燃え続けた末に、ついに芯まで燃やし尽くしてもろもろと中心へと落ちていき、その巨大な位置エネルギーが一挙に熱と光にな

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透徹する時空の集積体

透徹する時空の集積体

プロとアマの差はなんだろう?

お金を稼げるか、では外に寄り過ぎだろう。自分の拘りがあるか、では内に過ぎる。

それはたとえば、受け手の感情をエミュレートしながら自分の拘りを昇華できること。降りてきた良いアイディアの実現に全精力以上を注ぎ込めること。

そこに大事なのは気構えで、緊密を重ねた姿勢だけが私を証してくれる。

選んだ琢磨を続け、それを他者に供すること。怠惰を振り切り、批

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貴方の中の物語

貴方の中の物語

道具は使い熟すうち体の一部になる。それを思うさま振るうことで、ひとは世界と対話し、自分を押し広げることができる。

画家が描くように、作家が綴るように、どんな人もそれぞれの手や足や色や言葉や魂で活きる。

稚拙でも真摯に、階下から明日を見て、孤独に火を灯し、弛まず表現に手を伸ばそう。大切なものは全てそこにある。

わたしたちは語る

わたしたちは語る

味を語り、香りを語る。霊を語り、神を語る。見えぬものさえ語る。そこに意味はあるだろうか?

たとえばワインを飲んで、そこに見える景色を語ることはどうだろう。開栓したひとふれに立ち上る風景を、ほとばしる感情で表して、ひらめく言葉で組み立てる。

色や味、香りやなめらかさ、天候や地勢、人知や酵母、歴史や風土、万言でも言い尽くせない真善美。精緻な構造物からそれらを抽出せんと私たちは魂を振り絞る。

もし

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ただまっすぐに

ただまっすぐに

幾層にも分解された世界、濃やかに分節された感覚の端で
類似を重ね、差異を揃え、今を最大限に演算する。

よく目をこらして、昨日は見えなかった色を観る。
よく耳をこらして、昨日は聞こえなかった音を聴く。

無数に連なった「感じ」の層を育てて私たちは
速度を上げ、精度を増し、予測を磨き、未来を操る。

積み上げた内省の数だけ魂は精錬される。
たとえ結果は伴わずとも、努力はけして裏切らない。

より深く

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意味はあなたの鎖ならず

意味はあなたの鎖ならず

有意味だから好きなものは幾つもあるが
無意味でも好きなものは更にあるだろう。

風に、小石に、田んぼに、せせらぎ。
虫に、獣に、樹に、苔に。

そこにはただモノがあり、文字もなく意味もない。
(人が貼り付けた薄っぺらな解釈はある)

意味は人の中にあるもので、いくら重ねても実体にはならない。
あるモノの名前を世界中から10000個集めてもそのモノには無関係なように。

意味はあくまで人による人のた

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雨天曇天

崇高さを求める嗜好であれ、結局ほかの欲望となんら変わりない。登り続けていたつもりが、そのじつ降り続けていても不思議ではない。

地上には今日もなみだの雨がふる。