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選択問題
1 読者の方から次のようなご質問を頂いた。
「白帯の頃からハーフガードに絞って練習していくというのは、良くないのでしょうか?白帯の頃は幅広いガードを練習するべきという意見もあり、練習方法に悩んでおります。 」
もし、質問が「ハーフガードに絞った練習で試合に勝てますか?」という内容であれば、試合弱者の私に答える資格はない。
だが、ここでは「ハーフガードに絞った練習の是非」を問われているので、私からの回答は「問題ない。自分がやりたい事をやるのが一番だ」になる。
ブラジリアン柔術(BJJ)の白帯、その中でも熱意のある人程、「どんなオープンガードを選択したらいいのか?」「自分に合ったオープンガードは何か?」という点に悩まされているのが日本のBJJ村の現状である。
本来ならば、会員さんに直接接している道場主やインストラクターの人々が、悩みを抱える会員さんの体形や身体能力等の個性を見てアドバイスすべきだろう。
だが、どうも「どんなオープンガードを選択したらいいのか?」という問い(以下、この問いを「選択問題」と称す)に対する回答は、BJJ実践者がめいめい判断しなければならないらしい。
サウロ・ヒベイロの『柔術大学』を引き合いに出すまでもなく、BJJは「オープンガード」だけで成り立っているわけではない。
『柔術大学』では、BJJの内容を「ディフェンス」「エスケープ」「ガード」「パスガード」「サブミッション」の5つに分けて、それを章立てて解説している。
「オープンガード」は「ガード」の章の半分に過ぎない(残り半分は「クローズドガード」)。
したがって、私も「選択問題」に悩む前に、「ディフェンス」や「エスケープ」といった基礎をきちんと覚えるべきだと思うのだが、BJJに関するYOUTUBEを見る限り、「オープンガード」と「サブミッション」の動画ばかりがクローズアップされているので、熱心な白帯の人ほどYOUTUBEに惑わされてしまい、「選択問題」が解決できれば強くなれるという誤解を生み出す一因になっているのではないかとすら感じている。
BJJのテクニックに関する限り、「需要が供給を生む」のではなく、CMと同じく、「動画が欲望を喚起する」という逆転現象が起こっているように思えてならない。
2 話を元に戻すと、私が「白帯の頃からハーフガードに絞って練習しても全く問題ない」と考える理由は次の通りである。
(1)まず、技量の上達は熱意と練習量で決まる。
そして、他人に強制されて嫌々練習しても、「つまらない」から練習そのものが続かない。
したがって、上手くなりたければ、何よりもやる気を持続させるために「自分がやりたい事をやる」のが一番である。
「ハーフガード」が万人にとってベストな選択肢であるかどうか?という点はさておき、「ハーフガードを習得したい」と思ったならば、その熱意を練習に活かすべきである。
当然の事ながら、「選択問題」においてどういう結論を出すか?は各人の好みで構わない。
(2)次に、「白帯の頃は幅広いガードを練習するべき」という考え方に対する私の意見になるが、「オープンガード」に限らずどんな技術もある程度集中して取り組まないとそれを自分のモノにする事は出来ない。
だから、「帯の色を問わず、あるガードを習得しようと思ったら、一定期間それに特化した練習をすべき」だと私は考えている。
「選択問題」における一番効率の悪い練習法があるとすれば、ある日は「スパイダーガード」をやり、次の日は「バタフライガード」を、その次の日は「リバースデラヒーバガード」をやる、というように練習内容を日によって変える事である。
受験勉強を想起して頂ければ分かるのではないかと思うが、参考書や問題集を何冊も持っていても意味がない。
学力を付けたければ、まずは教科書の中身をきちんと押さえて、その上で取り組む参考書や問題集はひとつに絞り、それを繰り返すのが最も効率のいい学習法になる。
特にアマチュアであれば、練習の時間が限られているのだから、複数の「オープンガード」を並行して練習するような非効率な真似は止めた方がいい。
また、「選択問題」に悩む人というのは、既に「オープンガード」についてある程度情報を知っている人を意味している。
「オープンガード」の種類も知らずに、そのどれがいいのか?で迷う・悩むという事はあり得ないからだ。
「白帯の頃は幅広いガードを練習するべき」という考え方が、「知らない技は防ぎようがない」から、広く「オープンガード」を知る必要がある、という趣旨であれば、「選択問題」に悩むレベルの人であれば情報格差で相手に後れを取る事はない。
どんな「オープンガード」であれ、まずひとつ自分のモノにするべく練習を続ければいい。
「ハーフガード」の基礎を身に付けて、「ハーフバタフライ」まで習得出来れば、(バタフライフックではなく)ハーフガードのフックを相手の股下から抜くだけで「バタフライガード」になる。
「バタフライガード」を覚えれば、「Xガード」はその延長線上にある。
「スパイダーガード」と「デラヒーバガード」や「リバースデラヒーバガード」の関係も同様で、ひとつの「オープンガード」を覚えれば、それと相互に関連する他の「オープンガード」は、誰に言われるまでもなく、ひとりでに習得できるようになるだろう。
「選択問題」に対する対処法は、「コレ!」と決めたらその「オープンガード」をある程度身に付けるまで続け、迷わない事である。
「決断したら、迷わず目標に向かって邁進する」のが大事だというのは、「選択問題」に限った話ではなく、処世訓としてもしばしば耳にする。
それだけ自分の選択に自信が持てずに迷う(迷わされる)人が多い、という事なのかもしれない。
(3)もし、「選択問題」に対して自分なりに態度を決めて、あるテクニックの習得に励んだが、上手くいかなかったとしても、それを気に病む必要はない。
テクニック(move)は、その基礎となる動き(movement)の集合体であるが、ある「オープンガード」を身に着けようと努力した結果、その「オープンガード」というmoveが思うように上達しなかったとしても、基礎となるmovementは確実に身に付いている。
だから、ある「オープンガード」の習得に失敗したとしても、その学習過程で身に付けたmovementは他のmoveを習得する際に必ず役に立つはずである。
さらに、「オープンガード」は、「ガード」と名が付いているが、その中には「ディフェンス」「スイープ」「サブミッション」というBJJの各過程の要素が含まれている。
だから、BJJに関する自分の技量が全体的に上がってくれば、かつて覚えようと頑張ったものの、その時は使いこなせなかった技術が年月を経て使えるようになる事も稀ではない。
3 以上、本稿では「選択問題」についての私見を述べてみた。
練習は自分のためにやるものだから、周りが何と言おうと自分の選択を信じて練習を続ける事が一番大事である。
人生を主体的に生きるのは難しいが、他人にやらされるのではなく、自分の意志で何かを始めたのなら、自分がやりたい事をやるべきだと思う。
私は、若い時分に主体的に生きていなかった事を後悔しているので、自分の意志で主体的に人生を選択して生きている人を見ると、本当に羨ましい。
「選択問題」に対して、自分なりに答えを出して、それに邁進出来る人は、(部分的にではあっても)人生に対して主体的に生きていける人であり、私はその決断と努力に対して敬意を表したい。
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