スキゾフレニアワールド 第三十五話「戸田」

 今度はどんな作品を詩にしようか。俺は悩みに悩み続けている。この自堕落な私生活が金を一銭も生まない事など百も承知だ。顔を合わせるのは毎日、愛の無い支援員と障害者共……。精神汚濁、知的崩壊、身体破滅……。全く、神が居るとしたらぶん殴って殺りたい。此処に居たらますます病状が悪化する。俺は脳を掻き毟り苦悩する。辛酸。苦渋。驚嘆。産まれては消えるアイデアが木霊の様に吐き出され、また昇華してゆく。駄目だ。俺はスランプに陥っている。落ち着け。ワープロに書く手を止めて辺りを見回して見た。穏やかな何時もの変わらない風景。広広とした居間には大勢の利用者。其れ等を取り仕切る支援員。此処、障害者支援施設では朝の日差しをたっぷりと浴びては時間を悠悠自適に歩んで居る。欠伸が出るほどスローリィな延々ライフ。虚空の日々。生きているのか死んでいるのかすら分からない皆の衆。気晴しに便所にでも行こう。退屈な日常。情けない程に何も無い。加齢臭漂うトレーナーに襤褸襤褸のGパン。無精髭を掻きながら痰を吐くと隣のジジイが驚いた。幸い、小便は真黄色で健康的だ。鏡を見ながら手を洗うと、死神が微笑った。口が臭い、歯が黄ばんでいる。最早人生等絶望。かと言って最寄りも無い俺に保証人など居る訳も無く、天涯孤独の身だ。俺は笑った。この悲惨な運命を。俺はどんな神に見離されたのだろう。其奴はきっとイケメンで御曹司で金持ちでスーパーエリートで人生勝ち組街道爆進中の似ても似つかぬ世界の何処かの光り輝く若者に取り憑いたに違い無い。嗚呼、そうだ。そうに違い無い。涙が出てくるぜ、全く。さっきまで作詩をしていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。かと言って自殺する勇気すら俺は持ち合わせてねえ。御年四十四。正月が誕生日なのが救いか親の情けか。割に合わねえ人生だった。そう言って死のう。最期ぐらい笑って死のう。いつもそう決めている。何だか悲しくなって来た。今日も支援員の兄ちゃんと退屈凌ぎの会話でもして若さでも吸おうかな? ハハハッ。……溜息しか出ねえ。こんな人生バッドエンドだ。でも……うん、いいな。詩の題名は『バッドエンド』で決まりだ。そういう系だろ? 詩作も軽い脳トレだと思えば明日も笑える、そう。俺は単純な男だ。バッドエンド。ちっぽけな世界に水を遣るとするか。俺は創作活動を再開した。すると出てくる出てくる知識の泉。アイデアの宝庫がたんまり。堪らねえ。この瞬間だ。此れが堪らなくて創作は止められない。一種の麻薬だ。劇薬だ。ヌフフ……。俺はヤニの黄ばんだ歯茎を剥き出しにして微笑っていた。何時迄も何時迄も。其処に他意は無い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?