スキゾフレニアワールド 第二十八話「矜持」

 其の相談相手は事情を早急に察知してくれた。落ち続けた面接の結果など言う訳にもいかず、遣り場の無いもどかしさも涼子を思えば乗り越えられない事も無かった。黙って話を聞いていても、専門的な用語がちらほらと顔を出し姿を表しこの先の希望の兆しを明るく照らしてくれる様な気がして成らなかった。此れは飽く迄僕の見解だが。また心の中の安心材料が増えた。此れなら他の面接も頑張れそうだ。
 何故僕が選ばれたのか。主治医の先生も僕等の仲を知っているからに違いないのは一目瞭然であると同時に涼子の両親含め僕には信頼を預けているに他成らなかった。そうとも。僕にとって涼子は大切な存在であり、命より重い。図書館で勉強した薬の単語や他の精神病もちらほら会話の中に出て来たが其れが医者の仕事なら安心して任せるだけだ。僕の家族には彼女の事や容態など伝えてもいなかったが、それは僕一人で涼子の病気を背負えると思ったからだ。事実を教えて噂話に広がるより内情を隠して極僅かな少数だけで解決した方が良い。社会なんて色んなやつが居る。長濱のケースは最悪であり、精神障害を侮蔑する輩も少なからず居ると云うのが僕等の正直な意見だ。ソーシャル・ワーカーの人も気付いているに違いない。此処は慎重に行くべきだ。条件はクリア。後どう行動するかは僕の独断に掛かっている。最も涼子の容態を案ずるが他に無い。様々な医療機関が彼女をバックアップしてくれる。利用出来る者は何でも利用するべきだ。統合失調症の陽性症状は幻覚と幻聴が見えたり聞こえたりする事。医師はその症状は目立っていないし元々弱い関連性の薄い病状だと考えられて来たし、正しいと思う。問題は其の後。陰性症状は意欲の低下や喜怒哀楽感情の意志の沈静化。病気の前に元々有った物が失われるのが後者の陰性症状であり、涼子の具合に該当する。ならば話が早い。適切な治療を受けて経過を観察すべきだ。僕は今現在の僕の言及を全ての涼子の病気に関係する人達に話してきた。一通り話したが、言い寂れた事など一言も無い。其れが涼子の体を蝕む物ならば対応策など知れている。為せば成る。投薬治療と十分な休養だけだ。それが今の涼子に必要な最大で最良最善最高な処置。医者からも自分の頭の回転の速さと度量を何度褒められた事か。しかしこれも彼女を思っての事。彼女の為なら僕は死ねる。此の心情と今此処に居る現実こそが僕を僕としているたった一つで最大の理由で有る事は間違いようの無い事実であり、彼女を彼女足らしめている物は其れと言えよう。オールクリア。あと野と成れ山と成れ。僕は病院を後にしその思考回路を停止させた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?