スキゾフレニアワールド 第十四話「過去2」

 梅澤はラグビー部の下っ端だが根性とパワーは一人前で有った。その器でクラスメイトに慕われ、先輩達からにも尊敬される。将来を有望視されていた彼と彼女が出会ったのは偶然とは呼べなかった。雨宮涼子という一人の女子を通じて人間の本性、真理、真愛を知る。
 始業式当日。中高一貫の学校生活では運動に力を入れ汗を流す毎日であった。高校生に成ってもそれは変わらない。多くの部活が彼をスカウトに招き入れるもそれを拒絶しラグビー部に入部したのは其の一途な思いが有ったからだ。彼の母親は障害者だった。躁鬱病を患い所謂シングルマザーを持つヤングケアラーであったので有る。生活苦で生活保護を申請して家計を遣り繰りする毎日であった。朝刊の新聞配達の稼ぎは微々たる物だが彼は持ち前のガッツとエネルギーで自分形の青春を謳歌して居た。そして雨宮に会った。彼女の思いに気付いた。彼女の優しさに寄添った。初めての会話は何気ない物だった。彼女の噂は校内に忽ち広まった。梅澤は彼女を不憫に思い其の事を母親にも相談した事も有った。兎に角居ても立っても居られなかった。出来る事なら自分が代わりに其の統合失調症という精神障害を背負いたいくらいだった。其のくらい雨宮の事を愛していた。だが彼女は行ってしまった。結果、梅澤の恋は実らなかった。
 彼は彼女と別れた後人間の幸せとは何なのか考えた。何故障害者という人間が生まれるのか? 我々健常者として出来る事は何か? それは本当に障害者達を思っていての行動なのか? 考え上げれば切が無い。彼の中で未だ答えは出ていないし彼自身の幸せも保証出来る物でも無い。だが、自分を必要として欲しかった。もっと彼女の傷を癒やしたかった。見て見ぬ振りなど出来なかった。だからこそ、梅澤はこの行動に出たのである。
「何だ。お前から連絡が来るなんて珍しいな」
「頼みたい事が有る」
「言え」
「お前に賭けてみる」
「何をだ」
 梅澤は小倉に電話を掛けた。高校生を卒業した自分達に出来ることは何か。それが彼也の出した結論だった。
「……成程な。その医者は信用できるんだな?」
「俺の母親の主治医だ」
 雨宮を救う言葉が小倉なら言える。恋の戦いは一敗と先負だが梅澤は小倉を信頼していた。俺達の信頼関係即ち会話なんて其れで充分だ。
「解った。雨宮はあのコンビニで働いてるんだな」
「ラグビー部のOBが言っていた事を信用しろ」
「OK!」
 翌日、小倉は梅澤に薦められた精神科医の病院の住所を書いたメモをポケットに入れて駅地下へ向った。目的は決まっている。

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