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蒼天を突いてそびえる入道雲

 本日の空の色は、一点の塗り残しも混じりけもないチベットの青空を思わせるような見事な濃スカイブルーでございます。午前中、西の方角に、その青空を突いて、地表から(視覚的にそう見える)雪山のような形の入道雲がむくむくと立ち上がっていました。その白が空の青ときれいなコントラストをくっきりと描いていて、思わず見惚れちゃいました。山型の入道雲の裾野の方は、少し黒い色が混じっていて、それがまた実際の山っぽくて「乙」でございました。
 けれど、どんなに山の形を成していてもしょせん雲は雲。ほんの数分で崩れて平らかになり、どんどん白い塊が散っていきました。刹那の造形でしかない。諸行無常。
 チベットの空は、写真や映像でしか見たことがないのだけれど、今、たまたま沢木耕太郎の『天路の旅人』を読んでいたもんだから、今日の空の澄みっぷりに思わずチベットを連想してしまった。
 入道雲の「入道」とは、出家して仏教の修行をすることだ。僧侶そのものを指す言葉でもある。「大」入道というと、僧侶の剃り上げた坊主頭から大蛸の妖怪やそれを思わせる風体体格雰囲気の人物を転じて言うこともある。入道を「お山にのぼる」とか「山に入る」と言い換えることもできる。山に籠もって仏教の修行をするのに山に籠もることが多いからだろう。武道の修行でもそうだな。大山倍達は秩父の山に籠もったんじゃなかったっけ?(うろおぼえ)
 標高の高い地の澄んだ空を思わせる青空に、山のような形の入道雲――否応なくチベット連想が導かれるよなぁ。

 ところで、私は子供の頃から「旅もの」の本が好きだった。幼くは『西遊記』から始まって『大草原の小さな家』シリーズ、『西部へのすばらしい旅』『マルコ・ポーロ旅行記』(子供向けに編集した『東方見聞録』)『極北のおおかみ少女』などなど……。『西部への……』はもう絶版になっているらしい。『マルコ・ポーロ……』と『極北の……』は小学館が刊行した《少年少女世界の名作(全55巻)》に収録されていた。大人になってからは、前出の沢木耕太郎の『深夜特急』を読んだのはもちろんである。旅行ガイドブックを読むのも好きだった(笑)。行けないから読むことで愉しんでいた。
 今読んでいる『天路の旅人』は、貧乏なので文庫になるのを待ってから読もうと思っていたのだが、ふいっと書店で見かけて我慢できなくて分厚い、そして私にとっては高額な単行本を買ってしまった。購入するに当たって、ちょっと逡巡したのだが、ふと(人間、いつ死ぬかわかんないんだし。考えてみればBBAだし。こいつが文庫になるのを待っているうちに死んじまったら、何かつまんない)と思ったのだ。
 そうして手にしたその本を、就寝前にちびちびと読むのが最近のささやかな楽しみになった。
 今夜もまた寝る前の本の一時、布団の上に寝転がって、しばし沢木耕太郎の書く西川一三の旅の文章の路を辿る予定である。

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