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Bounty Dog【アグダード戦争】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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#連載長編小説

Bounty Dog 【アグダード戦争】185-186

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「ラグナル、私達も4棟に行くわよ。軍曹からヒュウラへは直接連絡が出来ないし、軍曹も防犯機械の元がある場所はサッパリ分からないって、理由付きでさっき電話した時にハッキリ言ってた。至極当たり前の理由だったから文句の言いようが無いし、ヒュウラに伝えた通り私達が軍曹と合流して、彼に協力して貰ってヒシャームに機械を止めて貰うしか無い」
 漸くパニック状態から脱して”クールで仕事が出来る女”に戻った

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Bounty Dog 【アグダード戦争】184

184

 ヒュウラはリングに背負われた状態で、残り10部屋になるまで5棟の軍曹探しをこなしていた。
 10分おきにラドクリフ邸防犯システム・軍曹命名”凶悪機械女”の強襲を受けて、ファヴィヴァバの金が多量に保管されていた元一族の家業オフィスだった5棟は、内部が細切れに切り刻まれて燃やされて、崩壊寸前になっていた。
 途方もない程積み上がっていたファヴィヴァバの金の7割が呆気なく喪失”ロスト”させら

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Bounty Dog 【アグダード戦争】182-183

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 シルフィ・コルクラートはミト・ラグナルを連れて地上の庭を走る。先に屋敷に侵入しているヒュウラとリングと同じように軍曹探しを最優先任務にして、地下通路の出入り口から1番近い場所にあるラドクリフ邸の第1棟では無く、斜め後ろにある第2棟に向かった。
 ヒシャームは屋敷から地下通路にいた己達に地図を落として渡してきた時、ラドクリフ邸の屋敷全体図も一緒に重ねて折って、渡してきた。全5棟ある巨大な

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Bounty Dog 【アグダード戦争】178

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 シルフィとミトは、ヒシャームがくれた地下通路の地図のお陰で、1時間程迷っていた広大な迷路を即座に攻略出来た。途中でバズーカ光弾と”お粗末罠”に襲われながらも、現在は最上階に行けば地上に出られる、踊り場付きの折り返し階段を登っている。
 リングが足首を傷めて壁登りした程に物凄く深く掘られた場所にある地下通路から地上への階段は、無論、途方も無い程に延々と長かった。30階分程登った時に、ミト

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Bounty Dog 【アグダード戦争】175-177

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 第3棟に居るヒシャームは、頭の中で”坊ちゃん”達との思い出に浸りながら、身体は優雅な足取りで、右腕だけを頻繁に動かしていた。掴んでいる指揮棒を模した特殊武器に付いている機能の1つで、毒ガス装置をガス噴射前に遠隔から壊す。慣れたように毒矢とレーザー光線を弾き続けながら小部屋に入ると、中の壁に貼っていた紙を1枚剥がし取り、丁寧に折ってから、床に空いている小さな穴の中に放り入れた。
 次に、

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Bounty Dog 【アグダード戦争】172-174

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 ヒシャームは、ファヴィヴァバが業者に指示して元ラドクリフ邸の屋敷と地下のあらゆる所に付けた”お粗末製・無差別即死罠システム”を、右手に掴んでいる黒い指揮棒1本で難なく全てを弾き返した。乱射レーザー光線すら指揮棒だけで弾き返す。指揮棒には持ち手部分に3個ボタンが並んで付いており、ボタンを押す事で3種類の武器に変化出来る特殊な仕様となっている。が、罠如きの対処で武器を変形させる必要は無かっ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】169-171

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 シャンデリアの上でリングと一緒に休憩しているヒュウラは、自身の首に巻かれている赤いスカーフが非常に気になった。
 軍曹に貰った赤いスカーフには、少し赤黒い染みが付いているが綺麗なアラビア模様が全面に描かれていて、人間の女性用だと思われる。結び目に同じくらい綺麗なピンバッチも付けて貰っていた。軍曹が好きな果物であるライムの実と木を模った少し大きい翠色のピンバッチで、鉱石で出来ているらしく

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Bounty Dog 【アグダード戦争】167-168

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 リングとヒュウラは、軍曹のお陰で充分に休憩が取れた。頭上で10秒毎に放たれる五月雨レーザー光線は、偶然テラスに降りようとした小鳥数羽と少し大きな鳥1羽と、虫数匹を追加で殺した。理不尽に命を奪い続ける人間の罠に、猫の亜人は怒りの鳴き声を上げる。狼の亜人は床の端に立て掛けられている注意看板の文字を読もうとした。だけどやっぱり1文字も読めない。
 書いた本人だと思う軍曹に後で内容を教えて貰お

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Bounty Dog 【アグダード戦争】165-166

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 リングはヒュウラを背負って、また壁を登った。今度の壁は屋敷の外壁なので、100階建てのビル並みに延々と登る必要は無い。が、ラドクリフ邸も個人の屋敷なのに5棟もあって各建物全て10階建てで、縦にも大きな屋敷だった。しかも天井も各階が割と高く作られていて、実際はビルに換算すると20階分程の高さがあった。
 足首が未だ痛い猫の亜人には、20階建ての家の頂上に登るのも結構辛い作業と化している。

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Bounty Dog 【アグダード戦争】163-164

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 ファヴィヴァバが博物館に改造途中であるラドクリフ邸にある”自分の財産”を守る為に仕掛けていた『カラクリ防衛機能』は、軍曹とファヴィヴァバが植物の死に絶えた果樹園で会話を始めた時に、既に猛威を奮っていた。
 最初に犠牲になったのは、何故かファヴィヴァバ軍の兵士達。コルドウ用の麻酔装置の煙を吸ってぐっすり寝ていた10数人のアグダード人の男兵士達が、天井から落ちてきた無数の刃物を全身に浴びて

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Bounty Dog 【アグダード戦争】159-160

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 執事風学芸員兼、死刑執行人兼囚人監視員兼囚人の世話係という役割がやたら多いヒシャームは、己の中では1つしか本業は無いと、ファヴィヴァバに仕えている今も強く思っていた。
 だが、其れをするのは、今はたった1人に対してだけであるとも強く心に決めていた。故に、他の役割を担う。これから担うのは新たな役割であり、ファヴィヴァバが己に課している役割でもあった。
 博物館を荒らす者や脱走者等を処分す

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Bounty Dog 【アグダード戦争】157-158

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 地になる死の牢屋からおよそビル100階分程の高さがある天井に向かって、リングは延々とヒュウラを背負って壁登りしている。物凄く長い壁なので、2回程疲れて壁に足を付けたままビル5階分程滑り落ちていた。今はビル80階に位置する所まで、猫の亜人は狼の亜人を背負いながら頑張って登り続けている。
 ヒュウラはリングに背負われながら、仏頂面で天を見上げていた。ヒュウラは背中に取っ手が沢山付いた巨大な

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