Bounty Dog 【アグダード戦争】184

184

 ヒュウラはリングに背負われた状態で、残り10部屋になるまで5棟の軍曹探しをこなしていた。
 10分おきにラドクリフ邸防犯システム・軍曹命名”凶悪機械女”の強襲を受けて、ファヴィヴァバの金が多量に保管されていた元一族の家業オフィスだった5棟は、内部が細切れに切り刻まれて燃やされて、崩壊寸前になっていた。
 途方もない程積み上がっていたファヴィヴァバの金の7割が呆気なく喪失”ロスト”させられている。2種類の紙幣をたった2枚だけだが無意識に窃盗して無意識にポケットの中で保護している狼の亜人も、頭の中が大炎上していた。
 怒りの矛先は、”凶悪防犯機械女”。透明になれる能力があるカメレオンの亜人だと思い込んでいるヒュウラは、何度言葉で脅しても同じ『偉大なる神』がどうのこうのと繰り返し言ってくるので、普段は寡黙なのに完全にキレて怒鳴り散らすバウバウ吠えに変わってしまっていた。
 ヒュウラを背負って護衛しているリングは凶悪機械の攻撃とキレたヒュウラのバウバウ吠えの両方が物凄く怖いから、早く軍曹が見つかって欲しいと思って止まなかった。己の種の生理現象であるニャーニャー鳴きすら、キレられてバウバウ吠えの標的にされるかも知れない。
 ヒュウラに己の群れの長だった老猫のククが事前に伝えてくれていたから、一度も無意識にニャーニャー鳴いてしまうのをキレられた事は無かった。だが、何時迄も黙らないカメレオンにバウバウ吠えてる狼は、猫の亜人の生理現象も忘れてしまうかも知れない。
 軍曹を一刻も早く見つけ出して、脅威から助けてヒュウラの機嫌も直したかった。バウバウ吠えモードの狼を背負った猫は、動くスピードを上げる。扉を壊して同じような金積み部屋を捜索しながら、大声で叫んだ。
「軍曹おー!返事、しろ!!ヒュウラ、凄く怒ってる!!カメレオン、ニャー、知らない生き物。でもカメレオン、知ってるなら、食う!軍曹、出せ!!」
 残り6部屋になった時、また声が聞こえてきた。
「煩え煩え煩え煩え煩え煩え!!煩えんだってずっと言ってるだろが!!いちいちいちいちいちいちいちいち俺に同じ事を言わせるな!!出てこいカメレオン!!テメエ、焼いて千切ってリングと食ってやる!!出てこい、出てこい!!カメレオン!!」
 怒り絶頂点のヒュウラが吠えまくった。リングはニャーと一声鳴いて、背負っているヒュウラに振り向く。
 鬼の形相になっている『友』に「首」とだけ言った。声は、スカーフとピンバッチが付いているヒュウラの首輪から発せられていた。
 バウバウ吠えたヒュウラに狼狽えながら、声を出してきたのはミト・ラグナルだった。

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