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Bounty Dog【アグダード戦争】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2022年9月の記事一覧

Bounty Dog 【アグダード戦争】212-213

212

 その日の夜は”民間お掃除部隊”も『世界生物保護連合』3班・亜人課の保護官達も、亜人2体も外の土の中に居るミディール達を含めたコルドウの群れも、楽しい夢を見ながら寝た。
 軍曹は家族と執事と預かりペットのカメレオンを世話していた子供の頃の夢を、ヒュウラは海苔付き醤油煎餅を食べながらデルタとミトとリングと一緒に保護組織亜人課支部のミトの部屋でテレビを見ている夢を見た。
 シルフィもデルタと

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Bounty Dog 【アグダード戦争】210-211

210

「イード・ミラード・サイード(お誕生日、おめでとう)!!」
「シュクラン(ありがとう)、テメエら。シュクラあーん!!」
 軍曹の誕生日がやってきた。ミトが朱色目に教えた西洋式の誕生日パーティの飾り付けがされたアジトのエントランスで、キラキラ輝く銀紙のポンポンが貼り付けられた座椅子に座っている軍曹は、何時もの格好だが何時もと違って、椅子に行儀良く座っていた。
 しようと思えば最高に御行儀の

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Bounty Dog 【アグダード戦争】209

209

 ヒュウラよりも先に怪我が完治した軍曹は、今度は己が毎日のように愛する狼の亜人の見舞いに行った。軍曹が見舞いに来る度にベッドの中で上半身を起こして迎えたヒュウラは、会話に併せてほぼ必ず脳震盪を起こす、あの力が強過ぎるワシワシを頭にされた。
 毎日毎日ワシワシされては、毎日毎日脳震盪を起こしてヒュウラが気絶するので、彼の保護担当者のシルフィが軍曹に規制を掛けた。此方も順調に怪我が回復してい

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Bounty Dog 【アグダード戦争】206-208

人間が自然と違うのは、弱い者程に非常に厄介だという事。

206

 アグダードを支配する3大勢力の2つ目の大将を”掃除”した軍曹とヒュウラ達は、隣の国との境の直ぐ近くにある北東の端から、掃除部隊のアジトへと帰った。
 帰りは勿論、車が無く徒歩。巨大屋敷で2日掛かりに渡って行っていた死闘の中で、車探しをしている余裕は全く無かった。実際にあの屋敷は、アレだけ広大だったのに車が1台も無かった。今は浄化

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Bounty Dog 【アグダード戦争】203-205

203

 シルフィ・コルクラートは、探し人を漸く見付けた。苗字だけ分かっている”アグダード民間お掃除部隊”の隊長が、散々探していた5棟の何処かから、突然姿を現した。
 着ている装備と右の二の腕に巻いている紺色のバンダナに目立った傷は一切無いが、黒いズボンは酷く破れていた。頭にヘアバンドのように巻いていた紺色のアラビアターバンも外している。露出している顔と腕が打撲傷だらけになっていた。気のせいか、

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Bounty Dog 【アグダード戦争】199

199

 4棟の応接間にいるシルフィ達と同様に、ヒュウラもその場から全く動けなかった。シルフィ達のように強大な殺気を受けて硬直しているのでは無い。食物連鎖の頂点に君臨する動物の亜人は、お化けや亡霊のような此の世のモノで無いもの以外は”怖い”の対象にならない。
 頭は極めて冷静だった。でもまた、嫌な予感が強くする。
 だが、食物連鎖で低い位置にいる動物の亜人である、己の”足”になってくれているリン

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Bounty Dog 【アグダード戦争】197-198

197

 運命は、個々の命でも、この星に生きる全ての命に対しても、時々大きな犠牲を払う。どんなに金持ちであっても誰も絶対に金では取り戻せない非常に大切なモノを、見えない何かに突然、何の通告も無く奪われる。

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Bounty Dog 【アグダード戦争】196

196

 ヒュウラとリングとヒシャームは、3棟の1階に辿り着いた。シルフィ達と軍曹も、4棟の応接間から通信機の電話とカメラ機能を使って2体と1人の様子を見守る。
 ヒシャームは大きな遊技場を幾つか通り抜けて、ヒュウラ達と戦闘した十字路まで戻る。十字の中央で止まると、天井に付いている小さな押しボタンを、背負っているヒュウラに押して貰った。
 2棟側の壁の一部が、大きな音を立てて扉の無い部屋の入り口

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Bounty Dog 【アグダード戦争】194-195

194

 軍曹が、己が今居る4棟の応接間に戻ってきたミトに通信機を返した。ケラケラ楽しそうに笑う、何時ものサッパリとした性格の人間に戻っていた”民間お掃除部隊長”に、ミトはヒュウラの命を助けてくれた礼を言ってから、”可哀想な”ファヴィヴァバのコレクション達を見つめた。
 応接間に置いていた悍ましい生き物達への侮辱の産物は、写真を1枚も撮らずにエゴと金儲けに利用された生物種のメモを取れるだけ取って

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Bounty Dog 【アグダード戦争】193

193

『テメエが俺のピンバッチに触るな、ヒシャーム。スカーフも。其れ、サディーク(友達)から借りてんだよ。破いちまったら、俺が凄えブチギレられちまう』
 ヒュウラは閉じていた瞼を開いた。大きく見開く。ヒシャームの動きが止まっている。時が止まっているように、相手は全く動かなくなっている。
 また救われた。今度は己も命を救われた。救ってくれたのは、ヒュウラが今直ぐにでも会いたい人間。今直ぐ守りに行

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Bounty Dog 【アグダード戦争】191-192

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 ヒュウラがラドクリフ邸第5棟で事前に作って用意していたブラックジャック風の鈍器は、ヒシャームに一瞬で斬り壊された。武器は偽物の宝石を玉にして撃つスリングショットだけになっている。あと、己の強靭的な破壊力を持つ足があるが、怪我が悪化していて痛くて痛過ぎて堪らなかった。
 ナスィルに拳銃で散々撃たれた足は、今は麻痺してくれずに脳の痛感を頻繁に刺激して襲ってくる。気絶しそうな程、痛かった。リ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】189-190

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 3つあった、ヒシャームの暴走を止める方法の2つ目が喪失”ロスト”した。残る1つの方法を、ヒュウラとリングは使えない。
 “ラドクリフの番犬”ヒシャームと対峙している狼と猫の亜人の頭上から”カメレオン女”ことラドクリフ邸防犯システムが、無感情の声で言葉を発した。
『侵入者イスナーン(2)が攻撃対象外と接近してる事を確認しました。対象外”ヒシャーム”はパシャ(閣下)の護衛役。イスナーンの始

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Bounty Dog 【アグダード戦争】187-188

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 ヒシャームが、リングをヒュウラを凝視した。顔は地下牢で初めて会った時と同じように優しく微笑んでいるが、纏っている気配が明らかに違っている。
 まるで食物連鎖の頂点に居る肉食動物が餌の動物を見つけた時のような、強い悍ましい殺気を十字路全体に放っている。”ラドクリフの番犬”は、恐怖で震え出した猫の亜人と、猫に背負われながら何の反応もせずに仏頂面で見つめてくる、不思議な色の目をした狼の亜人に

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