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小説 『クリスマスに星々を』

 雪が積もる街を歩く僕はふと見上げた大きなクリスマスツリーを眺めて、今年も十二月二十四日のクリスマスイブが来たことを知った。思わず足が止まる。煌びやかな星々の飾りが目を惹くそのクリスマスツリーの下には、楽しそうにはしゃいでいる大勢の子供達がいた。
「すみません、もしよろしければ寄付していただけないでしょうか」
 すると、目の前にはサンタクロースの格好をした女性がいた。彼女が掛けている名札を見ると星野という名前で、クリスマス財団という団体の職員のようだった。
「寄付って?」
「あのツリーの星々の飾り一つ一つが、寄付によって作られているのです」
「そうなのですね。それで、いくら以上の寄付が必要なのですか?」
「お金は結構です。ただ、あなたの心から精製される星が必要なのです」

 僕は驚いた。それからすぐ実際に精製の様子を見せてもらうと専用の機械で人の体内から星を精製していた。
「こうやって、作っているのですね」
「そうなんですよ。私も最初は驚いたのですがね」
 スタッフの星野さんはにこやかにそう言った。どうやら、クリスマス財団というのはサンタクロースが立ち上げた慈善団体で、子供達に夢と希望を贈るために様々な慈善活動をしているのだという。
「じゃあ、お願いします」
 僕は早速、星の精製を行うことにした。専用の機械を心臓のあたりに当たるように装着して、装置を起動させる。すると、きらきらと光る小さな粒子が透明なケースの中に集まって、輝かしい塊となった。この塊には価値があるようで、最近はこれを狙った強盗もいるとのことだった。

「これで後は、精錬したらツリーに飾れます。今から精錬しますね」
「わかりました。ありがとうございます」
 精製作業を終えて星野さんが僕の星を持っていく。その時だった。
「きゃあ!」
 突然、覆面を被った男が星野さんを襲って、ケースを持ち逃げした。
「待って!」
 僕は慌てて追いかけた。だけど、強盗の方が足が早くて追いつくので精一杯だった。
「待ってくれ!」
 走りながら僕は叫んだ。
「待つもんか、バカ!」
 強盗はさらにスピードを上げた。それから、急に止まってこちらの方を振り返った。僕は勢いそのままで強盗に体当たりを試みた。だけど、強盗の方も同じ考えだったらしく、
「これでも、くらえ!」
 特殊な強化ガラスでできたケースを僕の頭に殴りつけた。僕の頭に激痛が走り倒れ込む。
「はは、大したことねえな」
 そう言って強盗は倒れ込んだ僕の腹や顔を何度も蹴った。しばらくして、強盗はまたどこかへと走りだした。体のあちこちが痛み、血も出ていた僕は追いかけることもできずに気を失った。


「大丈夫ですか!」
 目が覚めるとそこは病院だった。どうやら後を追いかけた星野さん達が運び込んでくれたようだった。
「ごめんなさい……、大事な物取られちゃって」
「そんなことより、安静にしていてください。お願いですから」
「……ごめんなさい」
 それからしばらくして星野さん達は帰っていった。僕はしばらくの間入院しなければならない程の大怪我をしてしまい、病院のベットで情けない思いをした。
 強盗相手にボロ負けした自分が悔しい。どうしたら、あの星を取り返せるのだろうか。そう考えているうちに僕は、クリスマスだけにサンタクロースにお願いしたい気持ちになった。
「サンタさん、お願いだからあの強盗を捕まえてください。子供達のためにもお願いします。どうか……」
 思わず呟いてみた。こんなことを呟いても、奇跡は起こらないのに。

 目を瞑ると、遠くの方から鈴の音が鳴り響いてきた。まだクリスマスまで時間はあるのに。目を開いて窓の方を見ると、そこには空を飛ぶトナカイとソリ、それに乗るサンタクロースの姿があった。サンタクロースはこちらの方へと近寄って窓を軽くノックした。途端に窓は勝手に開いて、サンタクロースは僕の病室へと入り込んできた。
「私を呼んだのは君かな?」
 僕は呆気にとられながら「はい、そうです」とだけ答えた。
「君の気持ちは、よーくわかる。だが、私に全てを解決できるほどの力はない」
「そんな」
「それをわかって欲しくて、ここまで来てしまった。じゃあ、失礼するよ」
 サンタクロースが窓から外へ出ようとした時、僕は夕方に見た楽しそうな子供達の姿を思い出した。
「待ってください!」
「何だね」
「僕は、あのクリスマスツリーの下にいた子供達には笑顔でいて欲しいのです。だから、どうしてもあの強盗から星を取り返したいんです。お願いします、力を貸してください!」
 僕は全力で頭を下げた。それを見かねたのか、サンタクロースは僕の肩を軽く叩いた。
「付いてきなさい」

 サンタクロースのソリは思っていたよりも早かった。あっという間に強盗のアジトへと辿り着いた。
「ここにさっきの強盗がいる。気をつけるんじゃぞ」
「はい」
「お前さんにこれをやろう」
 サンタクロースは僕に小さな光の粒と使い方のメモを渡してくれた。
「少し早めのクリスマスプレゼントじゃ。きっと役に立つ」
「ありがとうございます」
「それじゃあな」
 サンタクロースはどこかへと飛んでいった。メモを読むとこの粒は、最高のクリスマスプレゼントだった。

 サンタクロースからの少し早いプレゼントを片手に僕は強盗のアジトの玄関前に立った。一呼吸をしてから、鍵が開きっぱなしの扉を開いた。
「お前か!」 
 すぐに強盗は姿を見せた。今度こそ、星を取り戻す。その覚悟で僕は目の前の強盗に向けて光の粒を差し出して呪文を唱えた。
「メリークリスマス!」
 粒は眩く光り輝き、舞い上がっていった。やがて、光は天井をも突き抜けて無数の星々が空を駆け巡った。
「うわ!!」
 強盗はその眩い光を見て倒れ込んだ。そして、光に呼応して泥棒が奪った数々の星が光り輝いて、空へと飛んだ。僕は星が空に飛んだのを確かめて強盗を紐で縛り上げて警察へと電話をした。

 全てが解決して夜空を眺めるとそこには無数の光が街中を包んでいた。その光の一つ一つが、やがて子供達の元へと届くだろう。遠くの方から鈴の音が聞こえてきた。
「メリークリスマス!」
 サンタクロースは高々に宣言した。今日はもう十二月二十五日のクリスマス。

(了)


この作品はナカタニエイトさん主催、「クリスマスまで物語を止めないで!物語が必要な人のためのAdvent Calendar 2021」参加作品です。

次回12月11日(土)は七澤アトリさんの作品となります。そちらの方もよろしくお願いいたします。


クリスマスまで物語を止めないで! アドベントカレンダー


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