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集団の5段階① すべての組織論を総括する5つのステージ

集団の5段階とは

世の中には様々な形のリーダーシップ論、組織論が溢れています。その中身は千差万別ではありますが、大きく分けて2つの系統が存在するでしょう。

ひとつは、リーダーとしての個人の経験を語ったもの。

もうひとつは、何らかの指標を元に統計などの手法で分析したもの。

ここで紹介する「集団の5段階」は、『Tribal Leadership(邦訳:トライブ―人を動かす5つの原則)』の中で語られた概念であり、この書籍はどちらかといえば後者に属するものとなります。

そもそも、私がこの概念を知ったのは、拙訳『イレブンリングス 勝利の神髄』の翻訳の際であり、著者のフィル・ジャクソン(NBAでヘッドコーチとして11回の優勝を誇る名将)がチーム作りの指針として何度もこの概念を引用していたためでした。

フィル・ジャクソンは、著書の中でこう語っています。

すべての条件が同じとして、ローガンと彼の同僚はこう強く主張する。ステージ5の文化はステージ4の文化よりも優れており、ステージ4の文化はステージ3のそれよりも優れており、以下も同様であると。加えて、一つの文化から他の文化に移るときには、規則もまた変わることになる。それこそが、リーダーシップ論の教科書に見られる万国共通の原理がほとんど役に立たない理由である。文化をあるステージから別の発展したステージに移すためには、グループの発展の中で特定のステージに適切な手段を見つける必要がある。(イレブンリングス 勝利の真髄)

これはつまり、「集団には明確に優劣のあるステージが存在し、ステージごとに改善のための方策が異なる」ということです。

一見すると当たり前のようにも思えますが、ここには実は、あらゆるリーダーシップ論、組織論をひっくり返してしまうほどの強い主張が隠れていまず。

もしもこの「集団の5段階」が正しいのであれば、この概念を採用していないリーダーシップ論、組織論は、どれも特定のステージについて述べたものであり、自分がアプローチしたい対象が違っていれば役に立たないということになります。

つまり、万能な組織論が存在しない一方で、「集団の5段階」によって組織を分類することこそが、あらゆる集団にアプローチするための唯一の方法だというのです。

では、その5つのステージとは何か。

5つのステージは、企業やスポーツのチーム、街の知り合いなど20人~150人程度の様々な集団(本書ではトライブと呼ぶ)内で交わされる言葉の種類を元にして集団の文化を段階的なステージに分けたものです。

交わされる言葉には、たとえば、「他人を攻撃するような言動」、「自身の不遇を嘆く言動」、「集団の文化を誇る言動」などが挙げられます。

早速、5つのステージについて見てみましょう。

5つのステージ

ステージ1「人生は最悪だ」
 他者から孤立し、人生は無条件に最悪のものだという考え方をする。このステージの人間が集団を作った場合、ギャング組織などの形で絶望的な敵意が行動に表れる。
 ステージ1から抜け出すためには、会食や会議や集会などの場に参加し、人生にはうまくいく場合もあるということを理解させることが有効である。

ステージ2「私の人生は最悪だ」
 ステージ1との大きな違いは、最悪なのはあくまで「自分の」人生だけであり、人生がうまくいく可能性はあるものの、自分の人生はそうではないという思いがある点である。
このステージの人間が集まると、「やってみたけど、うまくいかなかった。今度だってうまくいくわけがない」というあきらめムードが支配する。新しい試みを阻むことの多い組織には、ステージ2の人間が多く集まっている。
 ステージ2から3に至るためには、友人関係を増やすように働きかけ、短期的に成果の出る仕事を通して自己効力感が高まるように仕向けると良い。

ステージ3「私は素晴らしい」
 ステージ3の意識の根底は、「自分は素晴らしい」という考え方である。自分の能力や仕事に誇りを持ち、誰よりも熱心に活動をする。裏には、「自分は素晴らしいがお前は違う」という思いが隠れており、ステージ3の人間が集まると相手を貶めようと必死になる。
 ステージ3がステージ4に至るためには、ひとりでは達成できないプロジェクトを中心として、3者以上の関係を築くことが有効である。
 企業組織においては、上司がステージ3にあり、部下がステージ2にあるという状況が散見される。

ステージ4「私たちは素晴らしい」
 このステージの人間は3者関係を形成し、相手との間に価値観に基づいた人間関係を構築する。自分がその組織にいることを誇りに思い、リーダーはメンバーたちに引っぱられていると感じる。一方で、「私たちは素晴らしい」の中には「彼らはだめだ」という意識が存在し、敵対する組織や企業の存在が集団の結びつきを強めている側面がある。
 ステージ4は、まずその企業文化を安定させることが重要である。価値観や利益、チャンスに基づいて3者関係が成り立っていることを確認する必要がある。「私たちは素晴らしい」という言葉よりも「人生は素晴らしい」という言葉を用いるようにする。

ステージ5「人生は素晴らしい」
 ステージ4と似た特徴を示すが、ステージ5では自分たちと価値観が共鳴するならどんな人とでも限りなくネットワークを広げていくことができる。ステージ5の文化は、歴史を変えるほどのプロジェクトが存在しているあいだ、あるいは競争相手を寄せ付けないほどトライブが先端を走っている間だけに観測される。

以下に、5つのステージのネットワークの構造と解釈について述べます。

集団の5段階

上記の表からは、ステージ1、2ではそもそもネットワークが構成されておらず孤立した状態にあることがわかります。

ステージ3に至って初めてトップダウンもしくは集中処理のネットワークが構成され、ステージ4では構成員一人ひとりがネットワークの核となり繋がりあいます。

そして、ステージ5においては無数のネットワークが次々と広がっている様子が描かれています。では、こうした構造を成り立たせる要素は一体何なのでしょう。

この表を眺めることで、ステージ1~3においては個人の心理的な状態や活動が鍵となり、ステージ3~5においてはネットワークの効率性が重要な要素であることが推測できるでしょう。

『トライブ』はあくまで、「組織の中で交わされている言葉」を観察することでステージを分類し、対処法について述べたものですが、各々のステージを成り立たせている心理学的、社会学的要因については触れていません。

本論の目的は、各ステージのキーフレーズや文化を元に、心理学的、社会学的な概念との関連性を明らかにし、それぞれのステージに対する有効なアプローチを示すことです。

次回予告

次回以降に取り上げる各ステージにおけるキーとなる概念は以下のようになります。
ステージ1・・・トラウマ(自律神経の誤作動)
ステージ2・・・自己効力感の低下
ステージ3・・・トップダウンによる集中型組織
ステージ4・・・ミッション・ビジョン・バリューの共有による分散型組織
ステージ5・・・ネットワーク外部性によるネットワーク効果


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