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伝書鳩

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なんとなく始まった話を書きます
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しゃがみ込む

しゃがみ込む

頭を抱えて、泣き叫んでいた。
ただ、話を聞いて欲しかった。
誰しも話すばかりで聞いてもらった事がない。
聞いてはくれるが、その後の言葉に恐れてしまって手が止まってしまう。

しんどかったんだねと言ってくれれば、どんなにか救われたかと。

それでも、顔を上げて、乗換のホームに急ぐ。

夏の日差しで、もう暑い。
長距離を通う事に慣れ切ってしまって、イヤホンが無ければ、それでもいらないとか。

いつまで

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塞いだ耳の外で

塞いだ耳の外で

いつものように、何回も乗り換えて電車に乗って会社に向かおうとしていた。いつも同じ時間、同じ車両に乗る。見かける顔も覚え始めた。いつも同じ駅で降りる年齢はおそらく自分より15以上は上の男性がいた。イヤホンからはアニメソングのような音が漏れてくる。疲れ切った彼は、おそらく同じ曲を繰り返し聞いているようだった。自分も周りの人から見れば同じように疲れ切ったただの男で同じようにイヤホンを差し込んでいた。曲は

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伝書鳩 6

伝書鳩 6

バイオリン弾きの友人Hが演奏会に妻と私を誘った。

今自分は音楽を呑気に聞いている状態ではないが、妻も気持ちが落ちているので気晴らしになると思って二人で出かけて行った。Hとはどこで知り合ったかもう覚えていない。数年前どこかの集まりで知り合って、音楽で生計を立てているという事だった。いわゆるアートな人だろうとその時は単純に思った。妻も美大を出ているので、どこか気が合うかもと思ったが、とても気さくでま

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伝書鳩5

伝書鳩5

全てに背を向けて、空が明るくなり始めてくると、コンロにやかんをかけて熱いコーヒーを淹れる準備をする。八方塞がりな日々は続いて行くけれども、抜け出す兆しもなく俯いている。希望もなく、ただ追い立てられる日々に、強く根を張った雑草を片付けられない。

雑音や一方的な言葉に辟易させられる。それらしい言葉ばかり浴びせられて、こちらの言葉など何も期待していない。黙って聞いている。人の話を聞く人になりましょうな

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伝書鳩4

伝書鳩4

朝起きて、時計を見る。四時前だ。朝風呂に入ることにして以来、この時間に目が覚めてしまう。落ち込んだ気分を風呂の温度で上げていくことにしている。物凄い寒いというわけではないが、肌寒いほどでもなく、体の内側の点在した場所が、僅かに冷えている感覚がものすごい不快感がある。年齢を重ねて代謝が落ちたのか、ここ数年の鬱屈といした感情のためか毎日、その冷気に違和感を覚えながらも、それまで暑がりだった自分にはあり

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伝書鳩 3

伝書鳩 3

朝起きて、数時間湯に浸かる。そんなことができるのは、今自分が休職中だからだ。元々の精神的に、多動性と自閉性が混在していて、周囲に溶け込めていないと感じることが多くなってきたのだ。どこにいっても疎外感を少し感じるようになって、いつしか何にも貢献できていないと考えるようになっていた。仕事はデスクワークが中心で、各事業所、工場などの材料の仕入れや、人員の管理を主に任されている。上司達、上役達は自分の任期

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伝書鳩

伝書鳩

いつも、彼は話を端折りすぎる。癖なのか、当て付けなのか、彼の配慮のなさに、胸の片隅に違和感を覚える。会話がプツリと途切れることに、苛立ちを覚える。彼はなぜにそこまで僕に構うのか、わからない。人間に興味がないんじゃないのかと彼は言う。そうかもしれないなと僕は秋の日差し溢れる部屋で1人、冷めたインスタントコーヒーを啜るのだ。体調が良くなってきて、もう11月だと言うのに、昼間であればTシャツで外に出かけ

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伝書鳩 2

伝書鳩 2

いつの頃か前頭葉の辺りからこめかみにかけて、圧迫感のある痛みが続いている。時に断続的に圧迫されて、睡眠を阻害されてしまうのだ。睡眠薬やそのほかに何種類もの薬を飲んでやっと数時間寝れるようになった。痛み以外に、思考が止まらない。その思考が止まらないことが、頭の内側から痛みになって止めどなく流れてくるようだ。血流そのものが痛みのようで、不快で、全てが止まってそもそも軽やかに楽にならないか。最近はこの入

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