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伝書鳩5

全てに背を向けて、空が明るくなり始めてくると、コンロにやかんをかけて熱いコーヒーを淹れる準備をする。八方塞がりな日々は続いて行くけれども、抜け出す兆しもなく俯いている。希望もなく、ただ追い立てられる日々に、強く根を張った雑草を片付けられない。

雑音や一方的な言葉に辟易させられる。それらしい言葉ばかり浴びせられて、こちらの言葉など何も期待していない。黙って聞いている。人の話を聞く人になりましょうなどというけれど、聞く人などそうはいないだろう。話を聞いてくれる人とは言いくるめてくる人ではない。

ラジオをつけて、コーヒー飲んでなとか時間をやり過ごしながら、カラスが鳴き始める。今は昔みたいにカセットに深夜放送を録音する必要もない。過去の放送もいつでもどこでも聴き放題で、アナログとかデジタルなんて言葉もどこへいったものか。時代遅れなものをアナログと言っているだけなような気がする。

金に困って、安い仕事をコツコツやろうなんて話になってきたが、どうしようもない土地開発の建売の安い現場をやっていこうなんて気にはならなかった。もう、いいやと思って、個人的な依頼をこなしていこうと決めていた。金と現場を、なんでもいいから回していこうなんて終わりのない自転車に乗るのはまっぴらだ。NOと言って仕舞えばそれまでよ。月に30万で件数が増えれば120万で、年間1400万だなんて、頭がどうかしているとしか思えないというと、いよいよ、こちらが狂っているという目で見られて、ああそうでスカ、そうですか。そんな単純計算に興味はないんだと、貝のように閉じてしまうのだ。それでも、子供とカミさんを食わして行かないといけないし、返済やら、下職さん、材料の支払いもあり、困ったもんだ。入って来たものは、通過するだけで何も残らない。そんな態度で請負える仕事もやらないもんだから、払わなくていいものもどんどん増えて、尚更偏屈な人になってしまったようだ。

お金のサイクルの小さな輪の中に入ってくるくる走っている。外に出るには、他のネズミよりも早く走ることだと信じている人に、そんな遅い速さで大丈夫かとうるさく言ってくる。うるせえよ、黙っとけ。

そもそもそんなものに乗る気はない。山の中で筍を掘るのに忙しいんだ。春は特に、雨の日の次の朝は早く掘ってしまわないと、すぐに伸びて美味しい時期を逃しちまう。ただで、美味しい旬のものを食べれる。なんだか知らないが、世間の求めに応じてがっちり稼いだ金で、取れてから何時間もかけてどこかわからんところから運ばれた、鮮度の悪いものを、高い金払って、満足そうに食べてる奴には何もわからんのだ。

財布の中も冷蔵庫の中もからになって、スカスカのすっからかんで、こっちは身軽なもんだ。


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