CCÉ主催Féile Tokyo Online 2020フィドルソロ部門で金賞を取った話
いわゆる「コンペティション」を受けてみました。私が過去に受けたことがあるコンペはもっとお楽しみ要素が強いものでしたので、このような歴史ある競技会は初めてです。
CCÉ主催のコンペティション
CCÉ(現地の通称:コールタス)という団体の成り立ちと歴史は、『アイルランド伝統音楽の歴史』で触れていますので、ご一読ください。コンペティションは伝統音楽の振興の一環で始まりました。CCÉの主な仕事は、年に一度の祭り「アイルランド音楽祭(Fleadh Cheoil na h'Éireann)」を組織し、コンペティションを含むさまざまなイベントを企画することです。
コンペティションでは、伝統的なダンスの楽器ではないとされるハープ、ピアノ、サキソフォーンも参加できるので、立ち上げ当初は伝統音楽の促進という目的を叶えていない、という批判もあったそうですが、今日まで活気のある老舗コンペティションとして続いています。
今回は、コロナ禍下での特別な措置による非公式のコンペとなりました。国際大会への出場はありません。そして、初の試みとなるビデオによるオンライン審査となりました。
会の要項によると、審査は公式のフラー・ヒョール(Fleadh Cheoil)の予選と同様の方法で行われ、審査員は現地のアイルランドの音楽家で、評価85%以上(注:開催年によって基準率は変動することがある)が本選進出のおおよその目安となり、今回それが金賞になります。
私の評価
録画は、本番さながらに4種類の曲をそれぞれ2巡して連続で演奏し、後で編集してはならない、というのが決まりです。ノーミスを目指し、2テイク撮ったうちのひとつを送りました。期待していたより細かく書かれていてます。丁寧に見ていただいたようです。
Polka: Lovely steady playing and good swing to the tunes. Excellent positioning ornamentations. Confidently played. 85点
Jig: Lovely choice of tune. Good steady playing. May be try; Insert a variation in to the 2nd half tidy execution of Rolls. 83点
Reel: "The Cruel Father" Normally played in F equally lovely played in G. Good Steady tempo at the beginning but got faster. Still managed to hold it together. Lovely paying. 85点
Slow air: Confident playing displayed here. Lovely crisps rolls. Good phrasing and excellent use of your bowing to add the feeling of the music. You have a lovely traditional style. Lovely your playing. Well done. 88点
ポルカ:素敵で安定した演奏と曲にスイングがついているのが良いです。装飾音の位置が素晴らしい。自信を持った演奏です。 85点
ジグ:よい選曲ですね。安定した演奏が良いです。2回目の繰り返しのBパートのロールのところにバリエーションをつけてみてください。 83点
リール:The Cruel Father って普通はFだけど、同じようにGで弾いても素敵だね。始めのテンポはよかったけどあとで速くなった。それでも何とかまとまっている。素敵な演奏です。 85点
ソローエア:自信のある演奏。素敵で歯切れのよいロール。良いフレージング。素晴らしいボウイングによって音楽に表情が加わりました。素敵な伝統的なスタイルを持っています。素敵な演奏。よくやってくれました。 88点
「素敵な伝統的なスタイルを持っていますね」と言ってくれたことがうれしかったです。ちなみに、同じくエントリーした私の娘にも同様の言葉が贈られました。外国人である私たちに「伝統的」という言葉を掛けてくれるとは、なんと心の広い音楽家でしょうか。感激しました。
何を着眼点として見られたか
さて、審査員の先生はどこに着目して演奏をみてくれたのでしょうか? 音楽はさまざまな要素で成り立っています。コメントを見ると、そうした要素が、そのまま審査項目になっているように見て取れます。
選曲
曲はたくさんありますから、選曲が伝統の音楽ではコンペティションに限らずその人のセンスであり大切な要素となります。フィドルならばフィドルチューンが楽器の持ち味を十分に生かせるでしょう。CCÉはクレアスタイルを広めた団体ですから、もしかすると審査員はその地方の曲になじみがあるかもしれません。
ちなみに、私は、ポルカ:Lucy Farr's ジグ:Paddy Fahy's リール:Walsh's Fancy スローエア:Lament for O'Donnell を選びました。
(実は、応募しよう決めてから3日ほどしかなかったので、選曲で日が経ってしまい、あまり練習できませんでした。エアに至っては普段弾いていないのでほとんど付け焼刃です。)
テンポと速さ
テンポと速さがダンス曲では特に重要です。例えば、ポルカやホーンパイプをあまり速く弾いたら曲の持ち味が損なわれます。
私は特にリールを演奏していると途中から速くなりがちで、そこはやはり厳しく見られました。
また、ポルカの評に「スイング」とありますが、これは、ポルカをオフビートアクセントで演奏することです。ポルカは全体をオフビートで演奏します。
装飾音の種類と付ける位置
楽器が違うと装飾音の方法が違います。今回の先生はアコーディオン奏者ということでしたが、フィドルのこともよく分かる先生のようです。装飾音はアイルランド音楽の大切な要素なので、普段からよく学んでおきたいところです。
バリエーション
伝統的な奏者は繰り返しの際、曲を同じように演奏しないものです。曲が簡単に感じられるほどバリエーションが抜け落ちがちです。
バリエーションは伝統的な方法の範囲で行います。創造性も必要なので、私にとっていつも難しいところです。熟練の奏者になると、アレンジは即興的に付けられます。
コンペティションは次のステップへの励まし
これまで、コンペティションのチャンピオンが商業的にも活躍し、この音楽界の活力になってきました。また、このような競技会は子供や若い人にとって切磋琢磨の場になるでしょう。
しかしながら、演奏を評価したり、順位を付けたりするのは、本来この音楽の性質にそぐわないものです。ひとりひとりのプレイヤーの個性・持ち味といったものが、伝統音楽ではとても大事な要素だからです。
コンペティションは(それで生きていく人は別として)、自らの音楽活動のよい刺激となるイベントの一つとして楽しむもので、金科玉条とすべきものでもないと思います。ですから、点数や結果に一喜一憂することもありません。
コンペティションに出ることは、審査員の先生から褒めてもらったり、客観的な視点をいただいたりすることに意義があり、それを糧にして次のステップに生かすことができたら、音楽がますます楽しくなることでしょう。
審査員の先生、CCÉジャパンのスタッフの方、お世話になりました!ありがとうございました!
転載禁止 ©2023年更新 Tamiko
トップ画像:コンペティション審査結果。著者は85.25点を獲得し、金賞を受賞しました!
CCÉ Japan(アイルランド音楽家協会 日本支部)【結果発表】オンライン音楽コンペティション2020
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