まるごとみかんジュレ
「やきとり一年」
電話中の採用担当から急に発せられた、気になるワード。
わかっている。
派遣かマネキン会社とやりとりしており、応募者の職歴をたずねていたのだろう。
紹介いただいた方は、やきとり屋さんで一年の勤務経験があるのだ。
わかっているが。
「やきとり一年、あげもの二年、三年経ったら即店長♪」
と、脳内で勝手にカロリーの高い替え歌が流れてしまう。
あの、関東ではおなじみのカステラのCMソングにのせて。
本当は「カステラ一番 電話は二番 三時のおやつは文明堂」である。
この白い生き物が全員前にバタンと倒れて、最後の力を振り絞るようにしっぽをフリフリしながら終わるのがシュールだなと思って観ていた。
あと、今朝までこれが関東ローカルCMだと知らなかった。
あまりにもイヤーワームして、三時のおやつにひさびさにカステラを食べたくなった。
でも健康診断直前なので、正しい結果が出るように、脂質糖質カロリーは可能なかぎり抑えておきたい。
そうだ、ゼリーなら、ほとんど水分。
そう言い聞かせて、これにした。
グッとくる品がよく置いてあり気に入っている店に、親子連れが「あっこれだこれ!」と駆け寄っていった。
気になってそっと後を追うと、店先に魅惑のオレンジ色の瓶が山積みになっている。
テレビで紹介されました!のポップがついている。なるほど。
ジャムかな?と思い手に取ってみたら、なんとみかんが丸ごと1個入ったジュレだという。
春は柑橘、夏は柑橘、秋は芋栗、冬はみかん。
柑橘を愛する者として、買わない選択肢はない。
この片手ほどの瓶の中に、みかんがまるごと1個。
柑橘があしらわれた、胴巻きとシールがかわいらしい。
瓶のフタをあけたら、みかん色の山頂が顔をのぞかせた。
航空写真みたいだ。
これ以上ないくらいの、温かなみかん色。
そして、皮むきたての形状を記憶したままの、みかんの果肉。
せっかくだからお皿に開けようと瓶を逆さにして振っても、全く中身が出てこない。
そういえば、商品説明には水を一滴も使わずに、寒天とこんにゃく粉で固めているとあった。
もはやみかん餡のようなねっとりとしたそれを、スプーンでかきだす。
幸い、ガラス瓶からはつるんとはがれた。
先に、ピンポン球のような球体がごろんと転がり出てきた。「僕です!」といわんばかりに。
こぶりではあるけれど、本当にみかんが1個まるごと入っている。
ゼリー部分は、重力にあらがうかのようにまったく流れ出てこないので、ひたすらぶりんぶりんとかきだす。
脳内でブリンバンバンブリンバンバンブリンバンバンボン♪とCreepy Nutsが歌い出してしまう。
あと、まともに食べたことはないが、色的にウニをかきだしているみたいだ。
転がり出てきた球体を半分に割ってみると、まぎれもなくみかん。
丸ごと1個の果肉から、じゅわっと果汁が広がるし、ゼリー部分は見た目や触感のブリンバンバンボン感に反して、口の中でなめらかに溶けてゆく。
包み込むような甘みと、まるい酸味が広がる。
みかん50%、ゼリー部分50%。
たべごたえがあった。
ゼリーやジュレならほぼ水分だからヨシ、という冒頭の発言は完全撤回しなければならないが、86キロカロリーだからヨシ。
みかん、寒天、こんにゃく、お腹にもよさそうではないか。
ジャムとして食べるのもよさそうだし、固形感が強いので、断面萌えのフルーツサンドにもできるかもしれない。
あんこと寒天を添えたら、みかんあんみつにもできそうだ。
「果汁が九割、果肉は五割、柑橘おやつはマジ最高~♪」
と、替え歌が替え歌になり、脳内に流れ込む。
やきとりも食べたい。
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