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雑学辞典チョコレート

ドロステ効果という言葉を知ったのは、チョコレートがきっかけだった。

ドロステ効果(ドロステこうか、オランダ語:Droste-effect)とは、再帰的な画像(紋章学における紋中紋)のもたらす効果のこと。あるイメージの中にそれ自身の小さなイメージが、その小さなイメージの中にはさらに小さなイメージが、その中にもさらに……と画像の解像度が許す限り果てしなく描かれる。(wikipediaより)

合わせ鏡にしたときに、間に置いたものがいくつも無限に見えて、果てしない闇の向こうに手を伸ばしてしまいそうな、あのとどまることを知らない現象である。

なにかの略語かと思ったが、オランダのドロステ・ココアのパッケージデザインに端を発しているそうだ。

微笑みを浮かべたナースが持つカップには、微笑みを浮かべたナースが描かれていて、そのナースが持つカップにも微笑みを浮かべたナースが描かれていて、そのナースが持つカッ(以下同文)。

学生時代に先輩から教えてもらった輸入品のチョコレートがとても食べやすくて、メーカーを調べたらこのドロステ社だった。

海外のチョコレート、と言えばベルギーやフランスは有名どころがすぐ思い浮かぶが、オランダのチョコレートは聞きなれない。

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パステルロールチョコレートはおいしいぞ

フランス語やイタリア語の挨拶、と言えば、ボンジュールやチャオがすぐ出てくるが、オランダ語と言われると・・・ランドセル。
あとは風車を背景にしたカラフルなチューリップか、ゴーダチーズ。

とても有名なのに、正直あまりよく知らない国だと気づいてしまった。

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パステルロールシリーズは、六角形のカラフルなバトンのようなパッケージもかわいらしい。筒状のアルミの袋に直径3㎝くらいのまるいタブレット状のチョコレートが集合包装されているため、開け方を失敗すると、開き直って結局全部一気に食べてしまうブルボンのプチシリーズに似ている。

現時点で、ミルク・ダーク・ミルク&ダーク・ミルク&ホワイト・オレンジクリスプ・ダークミントクリスプ・エキストラダーク・キャラメルシーソルトと8種類の味がある。

柑橘好きなのでいつもオレンジクリスプを選ぶ。なめらかな口どけのチョコレートに、オレンジクリスプが練り込まれていて、爽やかな酸味が特徴的。

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バトンに短し、ちくわに長しの15㎝

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細かいデザインのおしゃれな六角形

しゃれた見た目と、ひとくちサイズの食べやすさはさることながら、この小さなパッケージから得られる情報で小一時間潰せてしまう。

輸入品なので裏面表示は外国語で書かれており、それを覆うように日本語訳の裏面表示シールが貼られている。

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全部香料かと思ったら、濃縮オレンジ果汁

外国語表記の方は、なかなかピントが合わないくらい、小さな文字でぎっしり。原材料や表示項目はそんなに多くなさそうだけれど、商品説明や小噺や雑学でも書いてあるのだろうか。

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耳なし芳一もびっくり

よく見てみると、オランダ語と思しき文字列のあとに、orangeやsugarといった英語が登場。ひょっとしてこれ、各国の言葉で書いてあるのでは。

冒頭のNLはオランダの言語コード、ENはイギリス、DEはドイツ。
合わせて、商品名にあたるところと、乳や大豆などのアレルゲンが太字で強調されている。わかりやすい。

この表示で、オランダ語で果実のオレンジはsinaasappelシーナサップル(=支那+りんご的な感じらしい)と呼ぶことを知った。

一方、色のオレンジはoranjeオラニエと言い、オランダでは、果実と色ではオレンジの呼び方が異なるそうだ。オレンジはオランダのシンボルカラーで、オランダ独立戦争の英雄オラニエ公ウィレムに由来しているという。英雄は食べるに恐れ多い、という配慮なのだろうか。

つぎ信玄餅を食べるとき、ほんの少しだけ心が痛むかもしれない。

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続いて、FRはフランス語、ITはイタリア語、PTはポルトガル語。
大学のとき、発音しやすさ優先で第二外国語にイタリア語を選んだ。zuccheroズッケロ(砂糖)やaranciaアランチャ(オレンジ)が懐かしい。基本ローマ字読みだから発音しやすいし、響きが陽気で愉快。

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原材料の並びが同じなので知らない言語でも解読できる

日本語のシールで覆われているところには何が書いてあるのだろう。

はがします

じっくり丁寧にはがしてみると、まだ各国語での原材料表記が続いていた。SEってどこだ。セニョリータ的なあれでスペインかと血迷ったが、そのあとのESにスペイン語の選択肢はとられた。

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並び的にsockerが砂糖にあたるので「socker 砂糖」で調べてみたところ、スウェーデン語だと分かった。オランダ語以上にはじめまして。

なんと、全部で8か国語表記。あらためてヨーロッパの地図を見てみると、オランダ近辺の国で出回っているチョコレートと分かる。ようこそ日本へ。

久々に世界地図を見たけれど、北欧諸国が鎮座するスカンジナビア半島、こんなに近かったのか。だから見慣れないスウェーデン語も表示にお目見えしているのか。

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それなら。

それなら、間に挟まるベルギーとデンマークとノルウェーはどうした。

ベルギーは公用語がフランス語とオランダ語とドイツ語だからいいとして、公用語としてデンマーク語が存在するデンマークは、英語やドイツ語で充当しているのだろうか。

デンマークは英語力が高いというし、デンマーク語自体の母話者数は500万人くらいらしい。「これ以上載せると字が小さすぎて見えない、まあ英語の表示あるし、隣だけど、デンマーク、すまん」となったのは理解できる。

ちなみにノルウェーも公用語はノルウェー語だが、スウェーデン語やドイツ語とよく似ているうえ、こちらも英語力が高く、母話者数は500万人くらいだった。対するスウェーデン語は1,000万人が話しているという。

砂糖という単語ひとつにしても、英語だとsugar、フランス語だとsucre、オランダ語だとsuiker、スウェーデン語だとsocker、ドイツ語だとzucker、イタリア語だとzucchero、ポルトガル語だとaçúcar、スペイン語だとazúcar。

インドーヨーロッパ語族の中でどう枝分かれしていったのか、言語系統をたどりたくなったが、果てしない世界の向こうに手を伸ばしてしまいそうなのでまたの機会にした。何もかもを欲しがっても人は悲しいくらい忘れてゆく生きもの。この果てしなさも、きっとドロステ効果。

なんとまあ、勉強になるチョコレートだろう。プチシリーズよりはだいぶお高めだが、おいしくて、これだけ学べるならコスパいい。

実店舗だと、わたし調べで成城石井はほぼ確実に取り扱っている。

Amazonだと大人買い必須

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