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ブラウニーのいざない

「世にも」という言葉は、「奇妙な物語」専用だと思っていた。

怪奇現象が起きたり、心の闇に翻弄されたり、バッドエンドで終わりがちなのに、不思議と取り込まれてしまうあのオムニバスドラマ。

タモリさんが、黒猫にトランスフォームしがちなあのドラマ。

お菓子の商品名につけられるとは、少々意外な感じがした。

ほぼ文字のみで訴えてくるデザイン

書体も、中身がみえないところもあやしげな、《世にもおいしいチョコブラウニー》と、《世にもおいしい和ブラウニー白桃》。

つまりは、とてもおいしいブラウニー、ということだ。

とてもおいしい、と商品名で謳われたら、自分のすみずみからあまのじゃくが集まってきて、「おやまァー、ずいぶん大きく出たねェー」と皮肉のひとつでも言いたくなる。

でも、世にもおいしい、と言われると、尊大な懐疑心と臆病な好奇心で手を出してみたくなってしまうのが、虎の、もとい、人間の性。

これもハートブレッドアンティークブランド

ねこねこ食パンや、マジカルチョコリングで有名なハートブレッドアンティークを手がける名古屋の会社が製造・販売しており、コンビニやスーパーで入手できる。

白桃は期間・数量限定。
和ブラウニー、とは、国産桃のジャムを使っているという意味らしい。

たしかにブラウニーは舶来品だし、アメリカのこどもが口いっぱいにほおばっているイメージがある。

わたしが子供のころは、異国の物語の中にしか出てこない食べ物だった。よもや、コンビニで手に入る未来になろうとは。

本品製造工場ではくるみを含む製品を製造しています

そういえばくるみ、ついに「表示義務のある特定原材料」に移行することになった。

表示義務のある特定原材料の見直しは、2008年にえび・かにの甲殻類が加わって以来。
くるみが追加されたことで、すでに義務付けられている落花生に加え2品目のナッツ類となった。

ナッツアレルギーをお持ちの方は、自社のお客様からお問い合わせいただく回数を振り返っても、確実に増えている。

それからというもの、裏面表示にくるみの文字を見つけるたび、「ねぇくるみ、この街の景色は、君の目にどう映るの?」と毎回問いかけてしまう。

メーカー勤めのミスチルファンは、1回は思ったはず。きっとそう。

くるみ自身がどう思っているか知らないが、安心安全の食生活を送る未来のためには必要な措置だし、それでも明日に胸は震えるのである。

特定原材料、増えることはあっても、減ることはないのだろうか。

ねぇ、くるみ。

この歌の「くるみ」は「来る未来」を意味する

お皿にうつすと、コンビニで買ったお菓子もそれなりにみえる。

それなりにみえ…

袋の外からは中身が全然見えなかったが、実にシンプルな見た目。
あやしいところは何もない。

無粋な言い方をすると、地面っぽい。

中身がみえる個包装にしなかったのは、あえて、かもしれない。

地層、ではなく断面

言われなければ白桃とはわからない、シンプルな焼き色の白桃ブラウニー。

しかし、口に含むと桃の香りがあっという間に広がる。
かめばかむほど、白桃風味のチョコレートチップが追い上げをかけてきて、桃にここちよく翻弄される。

チョコレートのほうは、断面にもみえるように、チョコレートチップがぎっしり。
これでもかというくらい、口の中でチョコレートをループさせる。
それでいて甘さは抑えられており、ほろ苦さも感じるのでくどくない。

お菓子の家をつくるなら、地面にはこれを選びたい。

ところで、製造者の住所が気になった。

浮気町!!

頭のなかで世にも奇妙な物語のテーマソングが鳴り響いたが、浮気(ふけ)町と読むらしい。

湿地帯で湧水が多く、水蒸気が漂う=る、に由来するのだとか。

茨城県に小浮気(こぶけ)という地名があるのは知っていたものの、滋賀県にもざわつく地名があったとは。

たしかに、滋賀県には琵琶湖、茨城県には霞ケ浦がある。

琵琶湖は国内で一番大きな湖だし、霞ケ浦は二番目。名前はアレだが、とても納得がいく。

世にもおいしいブラウニー、世にも奇妙な地名でつくられていた。

もちろん、味は誠実で真摯である。

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