飾るしかないマジック
あれから一年。
バレンタインホワイトデーにおける、同期とのメッセージカードバトル。
ことの経緯はこうだ。
同期ゆえ、あらたまって書くことがなかったわたしは、とりあえずフエキノリのキャラクターを描いて空白をやり過ごした。
同じ支店にいたとき、彼の机の上にグッズが置いてあったからだ。
それに対し、同一筆跡で寄せ書き風に書かれた金縁の色紙が返ってきた。
またの名を、飾るほどでもない色紙。
やられた、と思った。
なにを競っているのかはわからない。
でも、このまま引き下がれない。
今年はどうしよう。負けじと賞状風にしようか、飛び出す絵本風にしようか。
そもそもそこに労力をかける必要があるのか。
刻一刻とせまる制限時間、救いの手は、駅ビルで唐突に差し伸べられた。
フエキノリのカプセルトイを見つけた。
飛び出す絵本ならぬ、飛び出した現物。
ユーミンは目にうつるすべてのものはメッセージと歌っているし、スピッツだって言葉ははかないと歌っている。これしかない。
いつものオレンジチョコレートに、黄色いカプセルトイを添えて送りつけた。
そして先日、お題に対する回答、ちがう、ホワイトデーのお返しが関西から到着。
阪神タイガースのロゴが描かれた小さな箱からでてきたのは、去年と同じ《とらやあんスタンド》の餡ペーストと、尼崎が本店の《ショウタニ》の和三盆。
白いメッセージカードには「ありがとうございました」という簡潔な文言のみが書かれていた。
おやおや、白旗をあげたかい?
それとももう、競うことにつかれたかい?
どうだい?近頃仕事は忙しいのかい?
途中からエレファントカシマシ《俺たちの明日》を脳内再生しながら箱をたたんでいると、これが転がり出てきた。
梱包に使ったはさみやマジックを、うっかり一緒に入れてしまい、不穏なメッセージを添えてしまったことはないだろうか。
一瞬そのたぐいかと思ったが、よく見ると様子がおかしい。
蓋に耳が生えているし、トマッキーとかタイガースとか書いてある。
調べたところ、阪神タイガースの公式グッズだった。蓋は、球団マスコットのトラッキーの顔を模している。
つまりこれは、わたしが贈ったカプセル問い、もといカプセルトイに対する回答である。
雑貨には雑貨を。
黄色には黄色を。
しかし黄色は線だと視認性が低く、文字を書くには汎用性がない。黄色いインクの油性マジック、一体何に使えば。
あいにく阪神ファンではないし、マッキー愛好家でもないし、いま好きな色は緑色。
いま流行りのAIに聞いてみよう。
可もなく不可もなくの回答なので、聞き方を変えてみる。
そっと論点をずらされた。
3.のプラントラベルで黄色を使うときは、黒が見つからないとか、種類が多すぎて他の色を使い尽くしたとか、ほぼ妥協の最終手段だと思う。
AIはきっと、わたしがわりと詰めてくるタイプだということ学んだだろう。まだ逃がすまい。
ボケてというより、無理をさせてしまった。
ふだんまじめ一徹なひとが、精一杯ボケた感じがしていたたまれない。
巨大なピカチュウか、ふなっしーか、プーさんか、ポムポムプリンか、HTBのONちゃんを描く必要性に駆られたときにでも使おう。
飾るほどでもない色紙からの、飾るしかないマジックペン。
同期がここまで伏線を張っていたかどうかは定かではない。
聞いたら「そうやで、すごいやろ」としか言わなさそうだから、聞かない。
ひょっとして、虎屋とタイガースで「虎」つながりにもしていたのだろうか。
またしても、してやられた。
生身の人間、AIにはまだまだ負けていないと思う。
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