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「単純な」量は質に転化しない

スポーツの場面やビジネスの場面でよく「量は質に転化する」という言葉を耳にします。私もリクルートで働いていた時に先輩や、上司からよく言われていました。私自身もスポーツの経験の中でこの量の先に質があるということはなんとなく感じていたので最初は疑問に思わなかったのですが、少しずつ違和感を感じ始め、色々と思い悩んだ結果、自分の感じる量と質の関係と世間一般の量と質の関係は別物なんだという結論に至りました。

今回はこの量と質の関係の一般的な解釈と、私の感じるあるべき解釈について、拙著『マラソンは上半身が9割』の記述にもある「量と質」の記述をベースに記事にまとめたいと思います。

練習の量とは?

マラソンは上半身が9割(東邦出版)p.117【練習の「質」と「量」】より

練習において「量と質」はという言葉をよく耳にします。一般的な解釈としての量と質は、実はあまり良くないのではないかと私は考えています。そこで改めて練習の量と質を定義したいと思います。

まず、練習の量とはなんでしょうか?走る距離や本数というのが一般的ですが、練習時間や練習回数もそれにあたります。この練習の量は少ないのと多いのとでは、当然多いほうが効果アップの可能性が高くなります。ですから、大前提として継続すること、トレーニングすることは技術習得や競技力向上において欠かせない要素です。

しかし、私の考えでは本数や距離だけでなく、「練習強度の高さ」も量に分類されると考えています。ここでの強度は、速いスピードでのトレーニングやインターバルでの休憩時間を短くするといった負荷の高さを指します。強度が高い練習も、本数が多い練習も負荷を高めて身体を追い込むという意味では「量」に分類されると考えます。簡単に言えば体力という面で限界が来るトレーニングはすべて「量」として考えるのが私の考え方です。

練習の質とは?

それでは、練習の質とはなんでしょうか?一般的には先程出た強度の高い練習を「質」と表現していますが、私の解釈では「量」になります。では、どんな練習が「質」に値するのか?それは・・・

『目標に向けて最短距離になる練習』

この意味を持たせた練習は全て「質」の高い練習と私は考えています。筋力が足りないなら筋力強化、体力が足りないなら体力強化、技術が足りないなら技術強化・・・といった感じです。

また、この筋力・体力・技術は融合していく必要があるので、個々の能力を一体化していくトレーニングも欠かせません。こうした目標やゴールに向けて合理的なトレーニングを私は「質の高い練習」と私は分類しています。

質の理解を深める

ランニングや陸上において「スピード=質」というのは間違いではありません。むしろ、ほぼ正解です。しかし、力いっぱい走る形でスピードを出すのは高い質の走りとは言えません。小さな力でスピードを出せる走りが究極的に高い質の走りと言えます。

他のスポーツに例えれば、サッカーだとパスがどれだけつながっても一向に前に進まずゴールを奪えないとなると質の高さを見直す必要があるでしょう。また、どんなに強いシュートでもキーパーの真正面では質の高いシュートとは言えません。逆に、弱いシュートでもキーパーの虚をつくことができれば質の高いシュートと言えます。

野球でも、どんなに速いストレートでも相手の打ちやすいコースであれば室の低いボールですし、どんなに遅い球でも打ちづらい配球であれば”質”の高いボールと言えます。(ここまでが拙著の引用です)

要は、目的に対して最善を尽くした”選択”をすることが”質”につながるのではないでしょうか?どんなにたくさん練習しても、成果につながらない、そしてそれをずっと続けていることは正しい選択とは言えない可能性が高い。今までと違うトレーニングを試す、少しトレーニングの内容を変えていくことは現状を打破していくには必要になります。

それが、「負荷を高めること」なのか、「スキルを磨くこと」なのか、はたまた「休み方を工夫すること」なのか、いろいろな方法があります。

最後に

ここまでで伝えた質を考えると、量を増やしていくだけでは質に変わることはほとんどないことはなんとなく分かると思います。量から質に変化するには『強烈に』目的・目標を意識して自分の練習の内容を常に考え続ける姿勢が不可欠です。そして、質を高めていくためにはどこかで自分の考え方の「外」に飛び出す必要があります。

これについては3作目の拙著に、4人のアスリートが壁を超えるために自分の「枠の外」に出るまでのストーリーが書いてあるので、より深く読みたいかたはコチラもチェック。

ここには、自分ひとりではできない世界もあります。だからこそ、指導者という存在は大きいし、本や専門書の存在も非常に大きいです。別の競技からヒントを得られることもありますし、他国の選手の動きを見て人種が違っても参考にしてみることも壁をぶち破るには大切な観点になりそうです。

こうした工夫が「質」と考えると単純に量は質に転化しないと言えそうです。おそらく、私が一般的な量と質の考え方に違和感を感じたのは、私が量と質をこういう分類をしていたからだと思います。

ぜひ、自分のトレーニングの内容に意味をしっかり持たせること、意識してみてください。




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