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読書note『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー

オーエンと名乗る人物からの招待を受けて、英国の小さな孤島「兵隊島」に8人の男女が訪れる。
しかし屋敷には執事夫婦しかおらず、オーエンの到着が遅れることを彼らは執事から伝えられる。
招待客が夕食を終えたのちに、かけられたレコードから招待客と執事夫婦をあわせた10人の罪を告発する声が流れる。

孤島に集められた10人が順番に殺されてゆくアガサ・クリスティーのミステリー『そして誰もいなくなった』(原題:And Then There Were None)を久しぶりに読んだ。ハヤカワ文庫、青木久恵訳。
やはり秋の夜長はミステリーが相応しいかなと思って。

うろ覚えではあるが結末は知っていた。それでも、ぐんぐん引き込まれるようにイッキに読み進めてしまう。やはり面白い。
これはいかん、読み始めたらほかの事が手につかなくなる。

1939年にイギリスで刊行された古典的な作品ではあるが、未読の方のためにネタバレは控える。

『そして誰もいなくなった』の舞台となる兵隊島は本土との連絡手段が絶たれた孤島のため、本作は「クローズドサークル」の代表的な作品として知られている。
運の悪いことに嵐も近づいていて、島から泳いで本土へ逃げようというわけにもいかない。

二人目の犠牲者までは事故か、あるいは自殺という可能性があるので、残る8人の間に緊迫感は乏しい。しかし、3人目の犠牲者は明らかに殺人である。

オーエンの犯行か。ならば島のどこかに隠れているはず。
もし、どこかに隠れていているなら彼らは一致団結したかもしれない。

しかし、島にも屋敷にも彼ら以外に誰もいないことが分かる。

つまり、犯罪者はこの中の誰かということ。

こうなってくると、もはや誰もが他人を信じられなくなってゆく。
こうして、ミステリーにスリルとサスペンスが加わって物語が加速度的に面白くなる。

しかも、ただやみくもに殺害するのではない。ある童謡に見立てて順番に殺してゆくのだ。

 小さな兵隊さんが十人、ご飯を食べにいったら
 一人がのどをつまらせて、残りは九人

 小さな兵隊さんが九人、夜ふかししたら
 一人が寝ぼうして、残りは八人。。。

見立てる童謡は早い段階で読者と招待客に提示されている。
しかも10体の人形まで用意されていて、ひとり殺されるたびに人形も1つづつ破壊されるという念のいれようである。

『そして誰もいなくなった』は1939年にイギリスで出版されたというが、日本でいえば昭和14年のことである。今読んでも古さはほとんど感じさせない。

文庫本のあとがきに赤川次郎氏が寄せている。そのなかに「ミステリーはもともと「知的で粋な」娯楽であったはず」と述べている。

アガサ・クリスティーはこんな状況のミステリーでもわりとカラッとしている。あまりドロッとはしていない。
彼女の作品は血なまぐささや汗臭さがあまりなく、情念というか情動が薄いのだ。
登場人物にいろいろ考えや思いはあっても、あまり深く悩み苦しんだりする姿を見せない。

クリスティーのミステリーはあくまでも知的で粋な娯楽なのだ。

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