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糞フェミでも恋がしたい (その5)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミでも恋がしたかったが、普通の男なんかに何の価値も感じなかった、普通の男に抱かれるくらいなら処女のままでいい、私にとって、普通の男も、普通のセックスも、何の意味も持たない、私が求めるのは、圧倒的な男、社会的にも、性的にも、圧倒的で、雄の魅力に満ちた、そういう男に、無理矢理押さえつけられ、身体の芯まで犯され、孕まされ、首の骨をへし折られて死にたいのだ、いや、それはちょっとオーバーで、死んだら快楽に溺れることも出来ないから死にたくはないけど、死にたいほど蹂躙されたいのだ、圧倒的に暴力的に徹底的に陵辱されたいのだ、されたいのだ。

でもでも、もちろんそんな男はいないから、小学校中学校高校と、それは女子校だったけど、私は男を嫌悪することで自分を成り立たせるしかなかった、いつか自分だけの王子さまがと言えばそんなの馬鹿馬鹿しいと誰もが思うだろうけど、そんな風に捻れてしまった雌は私だけではないのかもしれないとも思うし、私にとってのフェミというのはそういうフェミで、ああ、ややこしいなあ、めんどくさいなあ、でも自分の性欲はそうなのだ、つまりはフェミニストというのは根っこのところでそういう感じがするんだけど、雌としての自分を尊大に強く主張することで、雄に陵辱される獲物としての魅力を手に入れたいというか、特別な存在になりたいというか、ともかく、限界いっぱいまで肥大させたプライドを、容赦なく叩き潰され、力づくで跪かせられたいと、心から願うようになってしまったのだ。

正直思うんだけど、雄も雌も、生物として全力で立ち向かって、全力で自分の性を生きればいいのだ、そして、それが出来ない軟弱な雄も雌も、生物として役に立たないんだから、みんな死んでしまえばいいのだ、糞フェミとして、真っ黒な呪いの感情を滾らせて、脳をアドレナリンでいっぱいにして、軟弱な雄どもに呪いの言葉を吐きかけながら、蔑みの目で見ながら、わたしはいつもそんなことを考えていた、みんなみんな、死んでしまえばいいのだ。

でも。でも。私だって雌だ。死んでしまう前に、恋がしたいのだ。糞フェミだって、恋がしたいのだ、恋をして、ぶっ壊されて、満足してから死にたいのだ。

そして4月の初め、私の願いは、半分、叶えられた。

渋谷の、雑居ビルの、LGBTのイベント、いろんな種族が集まる、ファンタジーのごった煮のような状況、私はもちろんフェミの急進派として、不機嫌そうにあたりを睨みながら、いつもの顔触れの中で、毒を吐き、社会を切ってみせたりする、それはもう安定感、反応もよし、いつもと同じ空気の中で、自己実現の偽薬は本当に良く効いて、いい気分になって、でもなんだかいつもとちがう、ちょっとだけ、どこからか、肌に感じる違和感、それがずっと気になって、そわそわの原因を探していた。

すると、ひとつの視線に行き当たった。女の子だ。中学生ぐらいだろうか、水色の、レースでいっぱいの、童話の中から抜け出て来たようなワンピース、袖口にアリス、カチューシャ、淡い口紅、桃色のおでこ靴、小さく、可愛らしく、表情にも仕草にも、柔らかさがあって、誰が見ても女の子だなあと思うような女の子、その子が、真っ黒な丸い瞳で、じっと私のことを見ている。勘違いではなく、何処に行っても私をじっと見ている。なんだろう、すごくすごく気になる。いや、気になるというか、私の心の中で警報が鳴っている感じ、赤い光がぐるぐる廻る、なんだろう。自然と目が合う。お互いにお互いを見ている、目が、離せなくなった、すると突然、私の心の中に閃くものがあった、これ、女の子じゃないんだ!男の子!

その瞬間、背筋がざわっとした、と、駆け寄って来た、いきなり私の手を取って、引っ張って、ぐいぐい引っ張って、歩き出した、あわあわ、私の方が背が高いのに、慌ててしまう、ぐいぐい引っ張られて、連れて行かれてしまう、なにがなんだか分からないまま、会場の裏の、薄暗い、誰も来ないような通路に来て、はあはあはあはあ、息が切れるよ、その子は手を離して、私に向き直った。そして私に向かって、飛び切り素敵な表情で、ゆっくり、にっこり、微笑みかけると、そして、おもむろに腕を振り上げて、白くて綺麗な手のひらで、私の横面を思い切りひっぱたいた!

ぱん!

え!なに!なんなの!いま私はなにをされたの!このほっぺたの痛みはなに!?星が散ったわ!わけがわからないまま、涙がぽろぽろぽろぽろ出て来た。足がふらふらして来た。背筋はぞくぞく、これはなんだ。いま起きているこれはいったいなんなんだろう、ぼんやりと立ち尽くす私。

するとその子は、欠片も表情を変えないまま、ちょっと悪戯っぽい瞳と、軽く嘲るような口調で、言った。
「あなた…ドMですよね。」
私は目をまんまるにしながら、息をひとつ吸い込むと、頷き、震えながら、なかば叫ぶように答えた。
「はいっ!…ドMです!」

コンクリートの壁に私の恥ずかしい声がこだました。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/n047ef256354e

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