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和田徹著(2022)『商品はつくるな市場をつくれ』ダイヤモンド社

一つの商品が完成されるまでを追うことが出来る貴重な内容

わたしは書店で本を手に取ると、パラパラとめくりながら文章の良いフレーズが頭に飛び込んできたら、反射的に購入してしまう悪い癖がある。

本書も、購入時にそのような場面に会い、書店で買わずにアマゾンで即座にポチッと購入してしまったもので、しばらく積読状態でした。本の整理中に再び読みたくなる衝動に駆られ、少しずつ読み進めた本です。

本書はキリンでマーケティングを行っていた著者が、麒麟淡麗や氷結、キリンフリーなど元々その市場がないところから、どのように市場を形成し商品をヒットさせていったのか、その裏方としての工程や思いというのが詰まった本になっている。

特に、飲酒運転事故で亡くなるという社会的なインパクトのあるニュースが背景に有り、その中で、キリンフリーに関しては、当初はノンアルコールビールの市場なんて無い中での認知度を得ていくことも丁寧に書かれてある。

このエピソードとして参考になるのは、225ページ以降にあるアルコール成分は0%でもプラセボ効果で酔ってしまう感覚になりはしないかという点をエビデンスを求め丹念に検証しているところである。普通は商品化を早く行うことに優先順位を高く持っていくと思うのだが、この検証結果を待つまでに時間をかけており、本当にその商品が市場に浸透していくに際してボトルネックと思われることを丹念に潰していく作業を行っていることに、単にマーケティングの本というよりは、商品の本質への深い切込みが重要であることを改めて読者に伝えているという点で、大変参考になる内容かと思う。

そのような努力があるからこそ、33ページにあるような「未来の当たり前」をつくるという観点に繋がっているのだろう。その点で、単なるマーケティングの本や、企業の自慢話的なトーンの多い他の本とは明確に違うクオリティをもつ本になっている。

また、お客様の期待値を超えるための考え方(p.68)や、5W1Hではなく最初はWhyから始める観点(p.74)、さらにインプット量がアウトプットを決めるという観点(p.86)は、わたしも同様の理解をしており、永続性の指針である「真・善・美」という考え方にも共感を覚えた。その「真・善・美」が、p.222にある才能の掛け算で結集されると、より完成度の高い製品と市場形成の土台ができてくるのだと理解した。

多くのマーケティングの本は、宣伝効果やニーズの掘り起こし等の表面的な内容で構成されているものが多いが、本書は商品を生み出すためにどのように思考しているのか、その例が描かれていて、とても参考になる良書だった。

プロとしての思いが、この本には詰められている。そんな読後感に浸ることが出来た。

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