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[PoleStar1] 月猫-02

 そうして退屈な日常を送っていたある日、ぼくは人間が荷造りをしているのを見つけた。また彼が仕事に出かけるというのはぼくにはわかっていた。それも、何日もかかるやつだ。

 ぼくはそれが不満だった。フレディの相手をするのが嫌だったし、やつがおかしなことをしないように見張っているのも疲れる。それにぼくはもう子猫ではないのだ。高いところにジャンプすることもできるし、この前は家に侵入した小さな虫を捕まえることだってできた。それを人間に見せたら、たいへん喜んでどこかへ持っていったのだ。

 そこでぼくは、人間が開けっぱなしにしていた大きなカバンに入ってみた。中は布がいっぱい入っていて狭く、たいへん居心地がよかった。まるでぼくのために作られた空間のようだ。きっとそうだと思う。
 このままカバンに隠れていれば、人間と一緒に出かけることができるのではないかと考えていたが、ぼくはすぐに見つかってしまった。
「ロック、一緒に行きたいのか?だけど君は連れていけないんだよ。外は危険だからね」
 ぼくは大丈夫だ、と言うかわりに自慢の長い尻尾をゆっくりと振った。しかし人間はぼくを持ち上げるとカバンの外に置いた。
「さあ、そこに荷物を入れるからどいてくれるかな」
 ぼくは諦めなかった。人間が荷物を取りにカバンのそばを離れた隙に、ぼくが中に入り込む。そして、戻ってきた人間がそれを見つけると笑いながらぼくを取り出す。そのやり取りを何度か繰り返してから、彼はしばらく考えてからこう言った。
「それじゃあ、次は予定を変更してキャンプにしようか」
 ぼくはそれに返す言葉を持っていなかったので黙っていた。そのかわり、床の上に座っている人間の膝の上に乗って、なでなでをする権利を与えることにした。彼は最初、ぼくの要求に答えて頭から背中までを撫でてくれたが、だんだん調子にのってきてお腹を触ってきたので蹴り飛ばしてやった。

                                                            *

 次の日、ぼくと人間は一緒に買い物に出かけた。店には人と動物がたくさんいて、いつも縄張りである家の中にいるぼくは目を回していたので、人間が何をしていたのかよく覚えていない。
 家に帰ると、人間は袋から何かを出してぼくの体に装着した。
「ほら、ロックの毛皮の色と合うだろ?」
 ぼくはハーネスを装着されてたいへん窮屈だったのだが、ここで嫌がると仕事に連れて行ってもらえないと思ってじっとしていた。それを見て人間は小さい箱に顔を近づけていた。あの小さな箱は人間が気に入っているもので、仕事のときにいつも持っていく。人間があれを持っているときはだいたい喜んでいるときだとぼくは知っている。箱をのぞく奇妙な姿にはいつも呆れてしまう。
 しばらく撮影会をしたあと、人間は荷造りをはじめた。ぼくはそれを近くで見ていて、ぼくの毛布とごはんが積まれているか確認する作業をしていた。

                                                              *

 それからぼくと人間は一緒にいろんな場所へ行った。
 人間は空が好きなようで、何もない平地や川のほとりや山の上に登ってよく空を見ていた。そうして小さな箱で写真を撮るのだ。ぼくも真似して空をみるようになった。ぼくには雲や眩しい太陽くらいしかわからないのだが、人間には何かが見えているようだった。とくに夜の空を熱心に眺めていた。そらは動かないので、ぼくは何が楽しいのかよくわからなかったが、フレディと一緒に家にいるよりは人間の仕事についていったほうが楽しいのは明らかだった。それに、ぼくは自分の得意なこともわかってきた。人間には見えない小さな虫や花を見つけるのが得意なのだ。お互いに見えないものが見えるから、ぼくたちは一緒にいるのだと思う。


続きます。

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