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[PoleStar1] 月猫-09

 部屋のすみっこでうとうとしていると、ドアが開いてさっき外にいたドレスの人と、白い人が入ってきた。
「コリンズさん、はじめまして。私のことはヘレナちゃんから聞いてるわね?そしてあなたがロックくんね!こんにちは」
 早口でそう言うと、カルミアさんという人はぼくに人差し指を突き出してきた。ぼくはその指に鼻を近づける。カルミアさんの指はゴムと金属のニオイがして、ウィルの指より固くて冷たかった。ぼくは驚いてどうしたものかと考えていると、今度はカルミアさんと一緒に入ってきた白い人が近づいてきた。
「は、はじめまして……ディーリーだ」
 ディーリーと名乗った白い人はゆっくりとした動きで手を差し出した。人間の顔がある部分が真っ黒でツルツルしているのが怖かったが、ぼくは恐る恐るそのニオイも嗅いでみる。やっぱりゴムのニオイがして、ものすごく冷たかった。外にいたから冷たくなったのだろうか。
「あなた、ロックくんに先に名乗ってどうするの。飼い主の方に挨拶しなさいな」
「いや、猫は人の会話の8割を理解しているから」
「まだそんなこと言ってるの?」
「過去行われた猫の脳スキャンのサンプルによるテストでは──」
「ああもう、あなたの猫理論はいいから!まずは礼儀!」
 カルミアさんに怒られて、ディーリーという人はウィルに向かって言った。
「どうも、ISSAのサードクラス研究員、ディーリーです」
 カルミアさんが割り込んで言った。「まだテスト中だけどね」
「ウィリアム・コリンズです。スペクターの人と会うのは初めてです。よろしく」
 ウィルとディーリーは握手した。ウィルはカルミアさんとも握手して、びっくりしていた。手が冷たかったからだろう。
「一般の人がスペクターと関わる機会はほとんどないからね」
 ヘレナはそう言ってカルミアさんとウィルの間に入ってきて言った。
「ねえ、これも記念に写真にしてよ」
「あ、それいいですね!」
 ウィルはそういうといつもの小さい箱を取り出した。
「ロック、二人の間に入って」
 ぼくはじっとして考えていた。カルミアさんとディーリーという二人の人間は冷たくてゴムのニオイがして、動物じゃないみたいだったからちょっと怖かったのだ。でも、ウィルが握手していたから危険ではないのだろう。

 ぼくが動かなかったからか、ウィルが近づいてきてぼくを抱え上げた。
「じゃあ、ディーリーさんに」
「え、俺はちょっと……ほら、怖がられてるし」
「大丈夫ですよ。腕をこう出してください」
 ウィルに促されてディーリーという人が両腕を前に出す。ウィルはぼくをそこに置いた。彼の腕もやっぱりひんやりしていた。でも、ディーリーはそれ以上動かなかったのでぼくもじっとしていた。じっとしていることは、ウィルの仕事を手伝うには重要なのだ。

「はい、じゃあ、みんなこっち向いてください。ロック、こっちだよ」
 名前を呼ばれたぼくは小さい箱を見る。ぼくを抱えているディーリーは微動だにしなかった。こうなると家にあるキャットウォークみたいなもので、もうディーリーのことは怖くなかった。ぼくはいつものように、堂々としたポーズをとる。


つづきます。

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