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単発のショートショート。以下のリンクに改稿履歴を残しています。 https://github.com/Fe2O3-neko/ShortShort
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#連載小説

妖怪の正体─2

妖怪の正体─2

月のない夜は星の明かりだけが頼りだが、ケヤキの近くには街灯が設置されていた。真っ白な光が煌々と辺りを照らし、葉や幹にくっきりとした影を作っている。

「こんな明るいところにいたら怖いやつに見つかっちまうかも」

約束どおり新月の夜にやってきたキツネは、落ち着きなくケヤキの影に身を潜めている。連日降り続いていた雨は、さっき空から降ってきた光によって消滅した。今、ケヤキの上空には夏の星空が広がっている

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妖怪の正体─1

妖怪の正体─1

奥羽山脈の西側にある盆地を見下ろす高台に、一本の大きなケヤキの木がある。樹齢二千年ほどの古い木だが、枝いっぱいに茂った葉は青々としている。それは、降り出したばかりの夕立を受けてツヤツヤと輝いていた。そこへ一匹のキツネが雨宿りにやってきた。尾が二本ある、これまた古いキツネである。

全身を震わせて水滴を落としたキツネは、ケヤキの根本に座って雨粒が葉を叩く音を聞いていた。
とつぜん、良い雨だね、と声が

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