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酒井順子(1966.9.15- )「人はなぜエッセイを書くのか 日本エッセイ小史 第十一回 食エッセイ今昔」『小説現代』2021年8月号

『小説現代』2021年8月号
講談社 2021年7月20日発売
https://www.amazon.co.jp/dp/B09919GR4V

酒井順子(1966.9.15- )
「人はなぜエッセイを書くのか
日本エッセイ小史
第十一回 食エッセイ今昔」
p.388-394
2022年11月26日読了

1966年9月15日東京都杉並区生まれ
立教大学社会学部観光学科卒業なエッセイスト
酒井順子さんの連載作品。
http://www.hatirobei.com/本を探す/作家から/酒井順子/雑誌掲載記事

「[邱永漢 1924.3.28-2012.5.16]
『食は広州にあり』
の[中公]文庫[1975年5月]解説で
丸谷才一[1925.8.27-2012.10.13]は、
同書が刊行された昭和30年代初めを、
高度経済成長期が始まった頃であると同時に
「戦後の窮乏期がようやく
終りかけようとしているころ」
だったとしています。

「飢えの記憶が生々しくて、
そのくせやっと腹がすかなくなった時期」
に出たのが同書であり、
またその翌年に刊行された
吉田健一による日本各地の食紀行
『舌鼓ところどころ』だったのだ、と。

昭和40年代半ばになれば、
高度経済成長による自然破壊や公害などにより、
「飢えの恐怖はもう一度せまって来た」。
そんな中で刊行されたのは
吉田健一『私の食物誌』や、
檀一雄『檀流クッキング』であり、
「われわれはまだ、
飢えの不安や恐怖をソースとしないかぎり、
美食の本を味わうことができないらしい」とも。

戦前の味を記憶に持ちつつ、
戦争による飢えの恐怖をも知っている人々が、
戦後になって食糧不足が解消してきた中で記したのが、
池波正太郎等も含めた高度経済成長期における
食エッセイ群ということになりましょう。」
p.389

平松洋子(1958.2.21- )
『父のビスコ』小学館 2021.10
https://www.amazon.co.jp/dp/4093888418
「「お百姓さんが汗水たらして作ったのだから、
ひとつぶ残さず食べなさい」
昭和の親の口癖である。

いまになってつくづく思うのだが、
親の口癖の背景にあったのは戦争の記憶なのだった。
育ち盛りだったとき、
食べたくても口に入れるものが乏しくて腹をへこませ、
芋づる一本も惜しんだなまなましい記憶。」
p.9「「父のどんぐり 」

平松洋子さんは1958年2月21日岡山県倉敷市生まれ、
私は1955年1月生まれな同世代ですから、
同様な記憶があります。

「食エッセイの世界に革命をもたらしたのは、
1965年(昭和40)に刊行された
伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』です。
この作品が日本の「随筆」を「エッセイ」に変えた、
と言われたことは以前もご紹介しましたが、
食に対しても、著者は新たな視点を導入したのです。

1933年(昭和8)に生まれた伊丹十三も、
子供の頃とはいえ、戦争を知っています。
しかし彼は、まるで戦争などなかったかのように、
欧州滞在記を書き、食の蘊蓄を披露したのです。

伊丹は、初めてアル・デンテのスパゲッティを食べた時の
衝撃などは書かず、
アル・デンテのスパゲッティしか食べたことがない
かのように、筆を進めます。

戦時中の飢えをスパイスとせず、
また食通ぶりへの含羞を見せることもない
食エッセイがここに登場したのであり、
それは一つのジャンルの開拓でもありました。」
p.390

「ケチャップで和えたナポリタンを
日本人がズルズル食べていた時代、
伊丹十三はそのダサさを憎んでいました。
伊丹は戦争のことを書かなかったけれど、
実は人一倍敗戦を意識していたからこそ、
よく茹でたスパゲッティをズルズル食べる
ダサさを憎んだのではないでしょうか。

食のダサさをどう扱うかは、
食エッセイの世界における一大問題です。
ダサさを憎むのか。
それとも[東海林さだお(1937.1.30- )のように]
「ダサさも美味しさ」として捉えるか。
それは単に味覚の問題ではなく、
ダサさの中にある日本という国のあり方の、
咀嚼の仕方にかかわる問題なのでしょう。」
p.394

「ダサい」という言葉は、
酒井順子さんより十歳年寄りな私は、
使ったことのない言葉です。
伊丹十三(1933.5.15-1997.12.20)は、
「ダサい」という言葉を使っていたのでしょうか。
『ヨーロッパ退屈日記』他を全然読んでいないので、
私には分かりませんけど。

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酒井順子(1966.9.15- )
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第一回 エッセイという謎」
『小説現代』2020年9月号


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第二回 「随筆」と「エッセイ」の違い」
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第三回 変わりゆく「コラム」」
『小説現代』2020年11月号

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第四回 「昭和軽薄体」の時代」
『小説現代』2020年12月号


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第五回 「つるむ」という芸」
『小説現代』2021年1月号


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酒井順子(1966.9.15- )
「人はなぜエッセイを書くのか
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第六回 女性とエッセイ」
『小説現代』2021年2月号


https://note.com/fe1955/n/n2b00749ac50f
酒井順子(1966.9.15- )
「人はなぜエッセイを書くのか
日本エッセイ小史
第七回 女性とエッセイ・海外篇」
『小説現代』2021年3月号


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酒井順子(1966.9.15- )
「人はなぜエッセイを書くのか
日本エッセイ小史
第八回 エッセイブーム今昔」
『小説現代』2021年4月号


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『小説現代』2021年7月号


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Posted by 山本 鉄二郎 on Tuesday, December 20, 2022

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酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第一回 初めての女性誌連載」
『小説新潮』2022年8月号


https://note.com/fe1955/n/n5789709a4899
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
 第二回 『ゼロの焦点』の表と裏」
『小説新潮』2022年9月号


https://note.com/fe1955/n/n3f15b2dc39d9
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第三回 お嬢さん探偵の限界」
『小説新潮』2022年10月号


https://note.com/fe1955/n/nd73f79dc9dd9
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第四回 初めての恋愛小説」
『小説新潮』2022年11月号


https://note.com/fe1955/n/ncc1a2176c33c
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
 第五回 転落するお嬢さん達」
『小説新潮』2022年12月号


https://note.com/fe1955/n/n644b2c0ce468
酒井順子(1966.9.15- )
「松本清張の女たち
第六回 『婦人公論』における松本清張 1」
『小説新潮』2023年1月号

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