愛がなんだ
渋谷シネクイントにて鑑賞。予告を見てきになっていた映画。角田光代の原作は未読です。ネタバレあり。
あらすじ:28歳のOL山田テルコ。マモルに一目ぼれした5カ月前から、テルコの生活はマモル中心となってしまった。仕事中、真夜中と、どんな状況でもマモルが最優先。仕事を失いかけても、友だちから冷ややかな目で見られても、とにかくマモル一筋の毎日を送っていた。しかし、そんなテルコの熱い思いとは裏腹に、マモルはテルコにまったく恋愛感情がなく、マモルにとってテルコは単なる都合のいい女でしかなかった。 映画.comより
感想:ナカハラもテルコも私だった
好きすぎてその相手になりたい。そんな願望を21歳の私は抱えていた。付き合いたい、恋人になりたいを通り越してしまう、こじらせて沈殿した煮凝りみたいな、恋とも愛とも言い難いなにか。彼と同化したいわけじゃない。彼に、なりたいのだ。
好きという名の呪縛
田中守ことマモちゃん(セーラームーン世代なんで地場衛っぽい響き)はテルコを振り回す遊び人なのかと思いきや、テルコと同じく恋愛一直線のひとだった。好意を寄せられれば甘えてしまう、他人との距離感はあいまいで、一途に誰かを思い続ける不器用さがあり、好きな相手の機嫌を取りつつも最後はどこか自分勝手。テルコとマモルが違うのは、自家中毒を受け入れるかという点。テルコは相手への思いを断ち切れないまま、もう会わないほうがいい(そもそも恋人じゃないし)とマモルに最後通牒を突き付けられても「別にいまはマモちゃんのこと好きじゃないし、いままで通り友達でいればいい」とごまかす。その嘘に対するマモルの「そっか、山田さんが俺のこと好きじゃなくてよかった」という、地獄の業火にやかれよ…!みたいな台詞に思わずうどんをつまむ箸を震わせる。それも一瞬。こうして、テルコは日々腹の底にたまっていく泥のような「なにか」に気づきながら、仕事をクビになり友人にも呆れられ、すべてを投げ捨てマモルという地雷にみずから飛び込んでいく。あまりにもすがすがしい。
マモルはどこまでにぶちんなのか、あえて突き放してるのか、ちょっと読めなかったけれど、恋人にしてよ、と強気にでられないテルコへの優しさは共感するばかり。年上のはすっぱなスミレさんのあとを追っかけるマモルが犬みたいで可愛かった。可愛かったよ。
ナカハラの「幸せになりたいっすね」
報われない恋をするテルコとナカハラ。ナカハラが片思いする葉子の家で大みそかに置いてきぼりにされたふたりは熱燗をのみながら除夜の鐘をきく。一瞬視線が絡み合うが『いや、あなたじゃないんだ』と分かり合う瞬間、何とも奇妙で、せつなくて、情けなくて。冷めた餃子を食べながら、幸せになりたいっすね、というナカハラにそうね、と苦笑するテルコ。
後半、コンビニの前で語るふたり。葉子さんを好きでいるのをやめます、というナカハラを𠮟咤激励するテルコ(おまえにその資格はない)
ほんとに好きなんですよ。好きでいるのをやめるときくらい、自分で決めさせてほしい。
そんなことをナカハラは言った。私はもちろん、後ろの席からすすり泣きが聞こえた。何人も泣いてた。21歳の私があきらめた恋は、6年後にfacebookで再会した。23時の誰もいないオフィス、残業中にきた友達申請。めったに承認しないのに、プロフィール写真が実業家みたいな横顔でクソカッコよかった。相変わらずだな、と笑って承認ボタンをクリックした。そのプロフィール写真は、結婚式に向かうハイヤーの中でとられたものだったのだ。ショックだった。ショックを受けてる自分にショックだった。デスクでガン泣きしてたところをオフィスの戸締りに来た役員にみつかり、【上司にいじめられて仕事が追い付かずストレスが爆発して泣いた】と勘違いされた。訂正はしなかった。心配して家まで車で送ってくれたKさん、ありがとうございます。あの御恩は忘れません。
だからナカハラの気持ちがしぬほどわかる。
「好きなことをやめる」のはできない。手放すことも忘れることもできるけど、やめるのはできない。好きをやめます、幸せになりたいっすね、というナカハラの表情はたぶんいつかの自分がみせた顔だったんだろう。
上記のインタビューより抜粋。
「原作にはない、象にまつわるエピソード」が、作品内で印象的に使われています。それは、「群盲象を評す」というインドに昔から伝わる寓話(数人の盲人が象のそれぞれの部位を触って「何を触っているか」の感想が異なり、対立するという話)からきているそうですね。テルコがマモちゃんを思うと「視野が狭くなる」ことを表していると。
ピントスコープのインタビューより
テルコもマモルも「自分が好きな相手」の一面しかみていない。なぜ自分に振り向いてもらえないのか、好きといってもらえないのか、理解しないまま突っ走る。相手の半径5メール以内しかみえない恋愛は絶対にうまくいかないし、天秤が傾いている付き合い方は精神衛生上、よろしくないのだ。
配役の妙
岸井ゆきの(山田テルコ)
⇒横顔が好き。電話を切ってクルクル回りながらお風呂に戻る場面が超かわいい。ベッドでずっとマモちゃんをみている表情が愛おしい
成田凌(田中守)
⇒左の首筋に3つ、ほくろが一直線にあるんですよ、どんだけー!追いケチャップ絶対アドリブだと思った(チャラい)
深川麻衣(葉子)
⇒テルコとの喧嘩で惚れ直した。キレる美女最強
若葉竜也(仲原)
⇒イチオシです。イチオシです。なんもいえねぇ…
テルコの上司(片岡礼子)
⇒スーパー銭湯で働くシングルマザー。なんかセクシー。こんな上司が欲しいね
江口のりこ(すみれ)
⇒ワインボトルのラッパ飲み、タバコモクモクが似合い過ぎる。最初安藤サクラかと思った
マモルとテルコのいちゃついている場面はどれも好きだったな。シーツを握る手とか、顔を寄せ合う仕草、寝顔を観察するところ。幸せな恋人の雰囲気がこれでもか!ってくらい出てる。でも付き合ってないんだよ。すごいリアルだよね。
登場人物がみんな優しいんですよ。「オーバーフェンス」みたいな傷口にハバネロソースぬるような映画かな?と身構えてたので、拍子抜けというか。いや、よかった。好きな部類です。今泉監督、ありがとう。
いただいたサポート費用はnoteのお供のコーヒー、noteコンテンツのネタ、映画に投資します!こんなこと書いてほしい、なリクエストもお待ちしております。