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自分の好きなマイナーゲームを大手Vtuberがやってくれた話

 自分が遊んでいるゲームがマイナーであると認識している場合、有名人がやってくれて一気に広まらないかなと考えたことは、誰もがあるでしょう。

 私が遊んでいるAge of Empires 2(AOE2)も、発売からずっとSteam同接ランキング70位くらいにいるゲームですが、もとは20年以上前の洋ゲーで、どちらかといえばマイナーと言っていい部類です。

 というわけで、私もインフルエンサーが配信でやってくれるといいなぁと思いつつ、それを期待していてもどうしようもないので、できる範囲で色々作ったり書いたりしていました。

 そんな折、有名配信者がAOE2をやるという事がおきました。
 本筋に関わらないため、検索にかからないようあえて名は出しませんが、ホロライブIDに所属するVtuberで、登録者は100万を超えています。この方は以前から何度かAOE2の配信をやられていましたが、今回は5人での大型コラボでした。総登録者数で言えば400万という膨大な数です。

 同時接続数がいくつだったかは知りませんが、数日経った時点で再生数は10万前後~40万に達していて、AOE2界にはこれほど数字を稼げる人は(おそらく)いません。
 日本メインの配信者ではないために反応が見えづらいだとか、様々な要因で登録者数は増えるだろうという話はありますが、登録者100万人越えという事実だけを見るなら、インフルエンサーがマイナーゲームをやったケースと言っていいでしょう。

 このような出来事は界隈(ゲームのコミュニティ群やファン層を界隈と呼ばせていただきます)にとってどんな効果があるのでしょうか。
 ゲームのファンにとって"好機"と言えるのかどうか、もしゲームを広めたいと願うのならしっかりと把握しておく必要があるでしょう。
 やってみたいと思ったから買って面白いから遊び続けるというのは、単純な話ですが簡単な話ではないのです。

 今回は"インフルエンサーがマイナーなゲームタイトルを配信した時の界隈に与える影響"について、考えていきたいと思います。
 AOE2が軸にはなりますが、一つのタイトルに限らない形で書いていきます。

・ゲームの同接数は増えない

 有名配信者がゲームを配信でプレイしたからと言って、このような形の場合、ゲームを遊ぶ人は増えません。
 まずは前提として、この事実を押さえておく必要があるでしょう。

 これは配信者の配信者としての実力だとか、規模とか、ゲームの腕前だとかはあまり関係ありません。

 視聴者が買わないだろうと考えられる理由はいくつかあります。
 まず配信者はゲームを売ろうという目的で配信していませんので、視聴者もゲームを買いません。

 単に広告とした場合でも、自分自身の経験として考えた時、広告を見ただけですぐに買おうという思考になるのは稀なのではないでしょうか。
 一般的に有料コンテンツまで到達するのは視聴者全体の数パーセント程度とはよく言いますが、それが配信者本人と関係のないただのゲームであれば、割合はさらに下がることでしょう。

 これを機に遊ぶ人もいるとは思いますが、すぐにゲームを起動してみた人の数はおそらく界隈にとっては誤差程度にしかならないはずです。

 基本的に配信者は自身のチャンネルの利益のために配信すると考えられます。
 つまり遊ぶゲームを選ぶ基準も「話題になっていたり流行っている、大きな客層があってそこにアプローチしたい、企画として面白そう、自分の良さやコンテクストが活かせる、視聴者ウケが良い、案件だから」といったものからでしょう。

 配信で生計を立てる配信者は、ゲームを流行らせるためにゲームをやるわけではありません。
 配信したから流行ったのではなく、流行っている、もしくは流行りそうだから配信するという場合がほとんどです(記事冒頭に紹介した方はAOE2を何度か配信したうえでのコラボなので、好きだから流行って欲しいという思いはあるかもしれません)。

 例えば配信者が長期的に遊んでいく中で配信者のコミュニティに広まるだとか、案件でタイアップしたうえで買って欲しいと言うだとか、有り得ないくらいバズるとか、普段から同じジャンルのゲームをやっていて視聴者層の好みと合っているとか、それくらいのことが起こらなければ、配信が直に購入につながるということはないでしょう。

 そういうわけなので、視聴者もこのような形の配信を見たからと言って、ゲームは買わないでしょうし、人口も増えません。
 ましてやマイナーゲームなら「流行ってるしやってみる、新発売だし触ってみる」といった別の動機もないので難しいでしょう。またAOE2についていえば、手軽に楽しめそうなゲームでもないですし、値段も安くはありません。自分の好みによほど合いそうだったり、昔やっててまたやりたくなった人以外は、とりあえず見て終わってしまうことでしょう。

・ウィッシュリストに入れば御の字

 ではインフルエンサーの配信が界隈にもたらす効果として、どんなことが期待できるでしょうか。

 以前書いた、この記事は覚えていらっしゃるでしょうか。

 記事の中では次の図を作って、コミュニティの様子や、どのように人口が増えるのかということを考えました。

深度(特に下3層)に対する内容はゲームによって変わる。これはAOE2の場合。

 この記事では、自分の"人口を増やすための活動"がどの層に影響を与えるものなのかを正確に把握する必要があって、一つの層を増やすことで、その上下の層を増やすことが期待できるのではないか、と書きました。

 例えば、ある程度そのゲームに時間を費やす攻略情報を調べる層(黄色)が増えた場合、界隈の腕前が上がってマルチに参加する人(緑)が増えたり、はまっているゲームをその人が所属する別のコミュニティに広めて"買った層"(橙)が増えるという効果が期待できます。

 そして記事の中で各層の増やし方も考えましたが、その中で我々一般ユーザーがアプローチできない場所が、赤の層、"知っている"層です。
 いわゆる認知度というものですが、こればかりは個人の力でどうこうなるものではありません。認知度を上げる方法と言えば広告や大会、Steamのオススメくらいで、これは運営が努力する範囲です。ですが広報面を運営が努力していれば苦労しませんし、マイナーゲームにもなっていないでしょう。

 ここに働きかける方法の一つが、記事にも書いた通り、インフルエンサーの配信です。
 再生数数十万という数字のなかで視聴継続率やリーチ数がどれくらいだったのかは知る由もありませんが、インプレッションまで考えれば相当の人の目に"AOE2"という文字列が入ったと推測できます。

 つまり今は、知られていなかった、もしくは忘れられていたゲームを多くの人に知って貰った状態と言えます。
 実際ツイッターで検索すると、"懐かしい、令和の時代にAOE2、昔やってた"といったことをつぶやいている人をちょくちょく見かけます。

 このようにインフルエンサーの配信は"知っている層"を増やす効果があります。
 今回知った人が興味を持ってとりあえずウィッシュリストにでも入れておいてくれれば、次のセールが来た時にもしかしたら"買った層"に移行するかもしれません。

・AOE2配信の難しさ

 AOE2を配信しながらやるということが、いかに難しいかということは、例え配信したことがなくても容易に想像できます。喋りとプレイの両立は、どちらかでトップレベルの実力を持ったプロでもない限りは難しいものがあります。

 これも過去に詳しく書きましたが、AOE2は観るのに適したゲームではありません。配信画面的に如何に厳しいかということはAOE2プレイヤーであれば共感できるでしょう。
 そして配信のプロである有名配信者も、AOE2のゲーム性や画面を見れば、合わなさそうだとすぐ分かるはずです。

 そんな中やってくれたのですから、まずはラッキーな出来事だと喜ぶべきです。

・マイナス面

 有名配信者による配信は、同時にリスクもあります。
 それはゲームや界隈の雰囲気が悪く伝わる可能性が十分にあるということです。
 最もありがちなものでは、"よくわからないつまらないゲーム"だとか、"一度見たし自分ではやらなくていいや"というゲームに対する感想です。そう思ってしまえば、視聴者は配信を見る前よりも、そのゲームをより買おうとはしなくなるでしょう。

 もう一つがオンラインゲーム特有の、界隈の空気感です。これは他タイトルを見てると、SNS等でぼんやり伝わってくるものでもありますが、配信のコメントでも感じることができます。

 配信者がプレイしているとき、視聴者の中に既プレイヤーがいるなら、当然アドバイスするようなコメントが流れます。
 頻度や言い方、タイミングに気を付けていれば親切程度の印象になるでしょうが、あまりにしつこかったり乱暴な言い方であれば、いわゆる指示厨になってしまいます。このタイプに好感を持つ人は、ほぼいません。

 配信者は流行っているゲームをプレイするものですから、指示厨に対する耐性も持っていそうですが、指示コメントが流れるような配信は見ていて気持ちのいいものではありません。配信自体の空気が悪くなってしまったと配信者が考えれば、そのゲームをやることはなくなってしまうでしょう。

 視聴者目線でも、メジャーなゲームならある程度希釈されるでしょうが、このゲームのことを知らなかった層からは、治安が悪いゲームだという印象を持たれかねません。
 このようなリスクは当然あるでしょう。


 話は少しそれますが、そもそも配信者はアドバイスを求めていないと考えられます。もちろんこれはAOE2に限った話ではありません。
 配信者は職業柄、そのゲームを上手くなる必要がないからです。

 配信者は上手くなろうとは思っていません。
 配信者は上手くなろうではなく、「上手くやろう」と思っています。

 上手くやろうとするとは、自分の判断で良いプレイをして自身の評価があがるだとか、逆に頓珍漢なプレイをして取れ高になって盛り上がるだとか、そういう配信的なことです。もしよほど面白いことが起きれば、それが切り抜き動画やSNS等で評判となって、自身の利益につながります。もしくは頑張っている姿や真面目に取り組む姿を見せてファンを獲得するだとか、次の仕事を獲得するという効果も望めます。
 つまりアドバイスを求めている場合も、それは配信やチャンネルのためであって、ゲームスキルの向上のためではありません。

 ゲームの実力が高くないと達成が難しい、スーパープレイや高い目標での取れ高を目指すスタイルをとる配信者もいますが、それをゲームの腕前を売りにしていない配信者が求めるとは考えられません。
 そしてもしも上手くなりたいと思うなら、裏で自分で調べたり、練習したり、分かってる配信者仲間とコラボして質問するのが一般的な流れです。

 配信のコンセプト的にも、わからない人同士でわちゃわちゃすることを目指しているかもしれませんし、自分で試行錯誤したいかもしれません。大抵のゲームは何も知識がない状態で遊ぶのが一番楽しかったりします。

 つまり既プレイヤーによるアドバイスはほとんどの場合必要ないのです。
 他人の舞台で求められていない事を延々とやることほど、顰蹙を買うことはありません。それがコンセプトに反するならなおさらです。

 ではどうすればいいかというと、そっと見守ることです。
 これしかありません。

 私はAOE2でそれが出来そうにないので、配信はリツイートと高評価だけ押してリアルタイムでは見ませんでした。

・もしチャンスとするなら

 ネガティブな論調になってしまいましたが、冷静に考えればインフルエンサーがやっただけで人口が増えるなんて、そんなうまい話はないでしょう。
 しかし、こういう機会を何かにつなげることはできないものでしょうか。

増えそうなのは赤の層だけ

 Youtubeの性質という面で一つ思うのは、おそらくこの配信やこの配信の切り抜きを見た人のホーム画面では、オススメに関連動画としてAOE2が上がっていると考えられます。そこで幾つか動画を見れば、"興味がある"程度の状態から買ってみようと思ってもらうことができるかもしれません。

 そして、Vtuberは箱内で同じゲームをやることは珍しくないので、日本勢にも伝播する可能性がゼロではないかなという程度です。
 非現実的な話ですが、配信者が上手くなりたいと思って裏で情報を集めようとしたときに、ちゃんと情報が出そろっていれば、それを次の配信で披露しようと考えるかもしれません。

 それ以外は普段と変わらないように思えます。
 結局、よほどのことがない限りは、買っても良さそう(今も人がいて新規参入できる)と思えるような環境だったり、攻略情報を探したときにちゃんと情報が見つかったりということが、人口を増やすためには必要です。

 1ユーザーの立場である限りきっかけを作るのは難しく、できることと言えば、せいぜいが衰退を食い止めてチャンスを待つことくらいです。
 チャンスはインフルエンサーによる配信だけではなく、DLCやセール、公式大会など他にもあります。そんな時のために備えておくのは無駄にならないだろうと、今回の一連の流れを見て改めて思いました。


 感想は以上です。
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