【映画感想】『抓娃娃(じゅあわわ) 後継者育成計画』中国で7500万人を超える観客動員を記録したコメディ映画は、バカバカしくて最高だった
こんにちは、電影雑記@横浜森林です。
今回紹介するのは、中国で7500万人を超える観客動員を記録し、興行収入約660億円を突破した、コメディ映画『抓娃娃(じゅあわわ) 後継者育成計画』。
子どもに裕福で恵まれた暮らしをさせることに不安を感じた大富豪の父と母が、息子を理想的な跡継ぎに育て上げるために、息子には大富豪であることを隠し、「貧乏家庭」のふりをしながら「後継者育成計画」を実行していく、というコメディ映画です。
作品情報
あらすじ
少年・継業は、父母と祖母の4人家族でオンボロの集合住宅に暮らしている。貧しい暮らしから抜け出すため、継業は名門大学への入学を目指して日々勉学に励んでおり、両親や祖母もそんな継業のことを優しく見守っている。
貧しいながらも仲睦まじく、慎ましい生活を送る一家だが、実は父・成鋼と母・春蘭は大企業を経営する大富豪で、この貧しい生活はすべて継業を厳しい環境で育てることで、跡取りとしてふさわしい人間に育てる「後継者育成計画」のために作り出された「偽りの貧乏生活」であり、継業だけがその事実を知らずに暮らしているのであった。
自身の境遇を「貧乏」と思っていた継業だったが、成長するにつれて親や隣人に対する違和感を覚えるようになっていく。そして、ついにあることをきっかけに「何かがおかしい」という疑念は確信に変わり、継業は真相を明らかにするため、大胆な行動に打って出ることに・・・
中国のコメデイ集団「開心麻花」の人気俳優コンビによる、観客動員7500万人突破のメガヒット作品
舞台、ミュージカルからテレビのバラエティ番組、映画と多方面で活躍する俳優や脚本家などが所属する中国のコメディ集団「開心麻花」の人気俳優・沈騰と馬麗のコンビが主演を務める本作は、中国で2024年7月に公開されると観客動員は7500万人を突破、累計興行収入はなんと約660億円に達するなど、メガヒットを記録した作品。
近年、中国映画界で活躍している「開心麻花」の面々ですが、2023年7月に日本でも公開された、三谷幸喜の『マジックアワー』の中国リメイク『トゥ・クール・トゥ・キル 殺せない殺し屋』も「開心麻花」のメンバーによって制作された作品で、主演の魏翔と馬麗の両名ともに「開心麻花」所属の俳優さんです。馬麗は本作でも主演を努め、魏翔も本作にチョイ役で出演してます。
ところで、中国の芸能界で近年大活躍の「開心麻花」って何者?
日本のメディアで「開心麻花」のことを「中国の吉本興行のような存在」というざっくりとした紹介をしているのを以前目にしたんだが、舞台やミューージカルを基軸に活動するコメディ集団で、近年は舞台演劇から映画やテレビドラマ、バラエティ番組などにも活躍の場を広げていて、さらに俳優のマネジメント業務もやっている劇団って考えると、松尾スズキ、宮藤官九郎、阿部サダヲ、星野源、荒川良々などなど、多方面で活躍する脚本家や俳優が所属する「大人計画」がイメージとしては近いんじゃなかろうか。あるいは、バラエティ番組でも活躍ってことを考えると、大泉洋や安田顕などが所属する演劇ユニット「TEAM NACS」とかも近い存在なのかも。
父・チェンガンによって秘密裏に実行される「後継者育成計画」
「幼い頃に貧しく厳しい生活を経験したからこそ、今の成功がある」と固く信じる大富豪の父・成鋼は、「息子を恵まれた環境で甘やかしては、将来が不安だ」という理由で、息子を厳しく育てるために、自身が幼少期に経験したような「貧乏生活」を通じて、息子を立派な跡取りに育てる「後継者育成計画」を、妻の春蘭とともに夫婦で貧乏人のふりをしながら息子にばれないよう、秘密裏に実行している。
金持ちの親が息子を後継者に育てるため、スパルタ教育をしたり、帝王学を学ばせたりなんてストーリーはありがちだけども、父・成鋼が実行する「後継者育成計画」の徹底ぶりは、もはや常軌を逸しているほどのレベルで、笑ってしまう。
継業の一家が住むオンボロの集合住宅の隣人たちは、すべて父・成鋼の会社の社員たちで、日々「隣人」のふりをしながら、継業の一挙手一投足に目を光らせ、こっそりと彼の監視・警護にあたっており、継業の家だけでなく、一家を取り巻く環境全体が父・成鋼の「後継者育成計画」のために作り出された、偽りの「貧困環境・コミュニティ」という徹底ぶり。
もうね、設定と世界観がいちいちバカバカしくて、最高です。
こんな荒唐無稽でバカバカしい計画を思いついて実行しちゃう、大企業の経営者で大富豪という成鋼。
「こんな無茶苦茶な社長が経営する会社って大丈夫なんか?」と思わないでもないが、子どものためなら公私混同で社員も巻き込んで、24時間体制で「後継者育成計画を実行するぞ!」という、なりふり構わない感じだからこそ「大企業経営者」「大富豪」に成り上がれたのかも、と妙に納得してしまった。
クローゼットの中には、地下の総司令部に繋がる秘密のエレベーター
この映画、劇中に登場する色々なギミックが楽しい。
たとえば、両親の寝室にあるクローゼットを開けると「後継者育成計画」のスタッフたちが集う、地下の総司令部へと続くエレベーターが現れたり、ボロ家の台所の戸棚を開けると料理人が待ち構える厨房につながっていて、そこに市場で買ってきた材料を入れると、調理された美味しそうな料理が出てきたり。
「この映画、コメディですからね。リアリティがどうとか言うのやめてね。そんな大真面目に見るもんじゃないですからね」という感じが、冒頭から最後まで一貫していて、中途半端にお涙頂戴みたいなシーンもなければ、変な恋愛要素とかも入れてこないし、本当見ていて好感度高いです。
そんな楽しいギミック満載のボロ家で暮らす継業ですが、作り出された偽りの「貧困」という境遇に対して、何ら疑問を持たずこれまで過ごしてきたものの、とある事をきっかけに「あれ?なにかおかしくないか?」と、いよいよ違和感を感じ始めます。
このわずかな違和感から「この世界は果たして真実なのか?」という疑問に至る流れが、キアヌ・リーブスの『マトリックス』的だなと思った。映画のテイストは全然違うけどね。
透けて見えてくる、中国の「家父長制」や「一人っ子政策」の影響
本作は息子を跡取りに育てるために、荒唐無稽な計画の実行に奔走する父と母の姿をコメディとして描いているけども、実は中国の子育ての問題をコメディを通じて風刺しているんではないかな、なんて思ったりした。深読みしすぎかもしれないけども。
というのも、中国では1979年から2014年まで一人っ子政策が行われていたのと、日本以上に家父長制の影響が強いこともあり、跡取りとなる「男の子」が生まれることを望む人が多く、とくに一人っ子政策の時代に男の子が生まれたなんてことになれば、そりゃ嫌でも両親は過剰な期待をするし、ついつい過保護になってしまうのも、わかるといえばわかる。
でもその結果、「小皇帝(男子)」「小公主(女子)」と揶揄されるほどワガママに育ってしまった中国の子どもたちが問題になっていたり、「心が未熟なまま」大人になってしまった「巨嬰(巨大な赤ちゃん)」が問題になっていたりと、中国の家庭教育が問題視されているので、そういう社会背景があることもあって、過保護な親や子どもに過剰な期待する親の姿を面白おかしく描いた本作が、中国でメガヒットしたんではなかろうか、と思ったり。
ちなみに、中国の家父長制の影響だったり、中国の家庭における女の子の扱われ方だったりは、『シスター 夏のわかれ道』という中国映画が描いているので、気になる人はこちらも見てみてください。
ご覧いただき、ありがとうございます!いただいたサポートは、note記事作成のために大切に活用させていただきます!