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ネタバレは精神衛生を良好に保つ

世間の人々は、ネタバレを忌み嫌う傾向にあるようだ。

確かに、これから観るにあたって「あー、あれはこういう話でラストはこんな感じだったよ」と詳細に言われたら、萎えるかもしれない。
「私これから観るんですけど…」と多くの人が思うだろう。

だが私は、時と場合によるが、基本的にネタバレは歓迎だ。

なぜなら、心の準備ができるから。

「心の準備ができる」ということは要するに、「精神的な衝撃から心を守ること」である。

小栗旬主演の「二つの祖国」(原作・山崎豊子)というドラマを観てからはそのスタンスがより強まった。

これはかなり長いドラマで、2夜連続だった。

CMが煩わしく、私は基本的にリアルタイムでは民放のドラマは観ないので、録画してから観た。


調べてもらえば分かるが、このドラマは第二次世界大戦前後の時代の日系アメリカ人2世たちの物語。

現地の日系人社会では原作をめぐって色々と論争が巻き起こったようだったが、ここではそれに触れない。


主人公はアメリカ生まれの日系二世の賢治。彼はロサンゼルスの「リトルトーキョー」と呼ばれている場所で新聞記者として働いていた。しかし、太平洋戦争が始まり状況は一変。
賢治らは強制収容所へ送られ、不自由な生活を強いられる。

やがて賢治ら日系二世は、日本かアメリカ、どちらの国に忠誠を誓うか、二つの祖国の狭間で選択を迫られる。

とまあ、このような感じの物語だ。

二つの祖国の間で、そして最愛の人を亡くして、少しずつ精神を病んでいった主人公は、最後に究極の選択をする。

私はこの結末を、事前に調べていなかったらショックで同じく精神的に立ち直れなかったかもしれない。それぐらいショックだった。

結末をあらかじめ知った上で、ドラマを見てよかったと感じた。そうでないと私は正直、耐えられなかったかもしれない。

レビューサイトでも「人によっては覚悟がいると思うから、余裕がある時に見たほうがいいかもしれない」と書いている人もいた。

とはいえ、観る価値はあるんじゃないかと感じた。

なぜならアイデンティティ・クライシスは、死を選択しうるほどの問題なのだということをこの作品で提示されたからだ。


この物語は、複数の文化圏にルーツを持つ人のアイデンティティ・クライシスを究極的に体現しており、このような文学作品は実際のところまだまだ日本ではそう多くはないのではないかと思う。

私はこのドラマを2年前に観たが、自分の帰属先、自分の国を結局のところ見つけられなかった主人公の絶望は、日本以外にもルーツを持つ自分にとっては他人事では無かった。


日本国籍で、義務教育から大学まで日本で過ごし、日本で、日本語で仕事をしている私でも、なぜか顔がいわゆる東アジア系ではないことと、ミドルネームがあることで他者化される事が多かった。

特に大人になってから、学校という狭い、ある意味では守られていたコミュニティから抜け出して、いろんな人間と関わる機会が増えてからはそうだった。

つい先日もとある集まりで「留学生ですか?」と聞かれて、驚き過ぎて「はぇ???」と間抜けな声が出た自分に乾いた笑いが出たばかりだった。


ところがそんな自分は、海外に行って東アジア系の顔を見ると、とても安心する。

日本で生まれ育っているので、いわゆる東アジア系の顔を見ると安心するし、それどころかどこかで「私は彼らと同じ系統の顔立ちだ。私もアジア人なんだから」と勝手に思い込んでいる。

私がそう感じるのは自然な流れだと自分では思うのだが、対して彼らは少し違うようなのだ。

彼らの中には私の顔を見たり私の存在を認識すると、「この人は自分とは少し違うグループに属する人間だ」と感じる人が一定数いるようなのだ。

それに気がつくと、とても寂しく感じる。



ネタバレの話をしていたつもりだったが、なぜかずいぶん遠くまで来たようだ。

とにかく、以上の経験があるので、ネタバレは私は積極的に歓迎している。

山崎豊子の、このドラマ化された小説、実はまだ読んでいないのだが、読みたくなってきたので、近いうちに買って読んでみようかと思う。

だいたいあらすじを掴んでいるので、読みやすいだろうと思っている。


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