(多分)最後のブログになります。

ブログ読者の方々、これまでありがとうございました。2013年頃にグーグルブログで始めた「ファシア考察」ブログもアメブロ、FC2ブログを経てこのnote.comに移り全部で約10年、よくここまで続けられたものだと自分で感心しております(笑)。この度、21年半住んだイギリスを離れ日本に帰国することにしました。しかし日本に帰国してまだこの仕事を続けられるかは全くの不明で他の仕事につく可能性も無きにしも非ずなので、これでこのブログは一旦終了とさせていただきます。もしまだ鍼灸あマ指師として働き続けることになるようでしたら、自分の勉強もかねてブログは更新していく予定ではあります。

今回は私がこのファシア考察ブログを通して学んだことの総まとめ的なことを書いていきますが、鍼灸師、あマ指師、整体師たちに一番伝えたいことを最初に書いておきます。そしてその後のダラダラと長いまとめ的なことは興味のある方だけ読んでください。

私からの最後のメッセージ

もしあなた(鍼灸マッサージ師、整体師)が「患者さん」(あえてそう表現します)のお役に立ちたい、痛みや病気を治してあげたいというのであれば、ぜひ

医学部を受験し、医者になってください。


もしそんな努力もできないし(頭の良し悪しでなく)、時間もお金もかけられない、というのであれば

看護師か理学療法士か作業療法士などの

パラメディカルの資格を取ってください。


そんな金も時間もない、というのであれば、鍼灸師であれば「刺さない鍼で心地よくする」、あマ指師であれば気持ちのいいマッサージをこころがける。それもほとんどの徒手療法家達が現状やっている「何々に効果がある」といって嘘をつくのではなく(←だってエビデンスないじゃん!)、あくまでもリラクセーション、クライアントのQOLを高める、に特化したほうがいいと思います。

私のように

「各症状に対する病態、病因をしっかり理解し
 エビデンスに基づき現状どんなケアが最適なのか
 BPSモデルに則った最新の痛みの科学の情報を提供しつつ
 また医師のおざなりな診断には十分に注意を払い
 やばそうだったら医師の元へ送り返せるほどの知識を持ちつつ
 気持ちの良いマッサージに専念する」

という方針を持つとドツボにはまります(笑)。毎日毎日が勉強地獄になってしまいます(笑)。

以上が治療家人生25年の私の結論です。もちろん賛同、無視、反対、反論はあなたの自由です。

以下、これまでの振り返りですので、暇なひとだけどうぞ(笑)

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このブログを振り返るにあたって、私の治療家人生で一番最初の衝撃的な出来事を経験したのが2013年に参加した解剖実習でした。解剖実習自体は2012年からロンドンやスコットランドで参加していましたが、2013年のロンドンでの解剖実習中、ご献体の僧帽筋のあたりの皮膚と浅層ファシア(superficial fascia)を剥がして僧帽筋を触っていた時、「やっぱり生きていないと筋肉は弛緩してしまうからか、僧帽筋には”凝り”(筋硬結)がないのかなあ」と思いながら、不意にその皮膚と浅層ファシアをまた僧帽筋の上に戻し、その肩上部を触ってみると、「あれ?凝りがあるぞ!」と感じたことでした。そこで「普段患者さんの体表から触って感じる凝りとは筋肉の上の層のファシアの凝りであって、筋肉の凝りではないのでは?!」というところがこのブログを始めたきっかけでした。

そこでファシアを本格的に勉強するにあたって多くの本を購入しましたが、特にこの5冊は熟読し、初期のブログでもそれらの本から多く引用させていただきました。

その中でも特に日本人治療家の間でもいまだに有名な「アナトミートレインズ」を読んだ時は衝撃をうけました。日本で筋肉を勉強していた時は筋肉の起始と停止だけを考えていたのが、筋肉同士はファシアを通じて繋がっている、しかもそのラインは経絡とそっくりだ、という説には驚きを受けたのと同時に、「だから鍼治療は効くのか!!!」と思ったものでした(笑)

上の写真のアナトミートレインズの横の本がジュリアン・ベーカー氏の「ボーエン・アンラベルド」という本で、そのジュリアンが解剖実習の時に「アナトミートレインズは空想のもので、意図的にそう切り分けた」ということを説明された時も衝撃的でした。今まで信じてきた「アナトミートレインズ≒経絡」ということを完全否定されたからです。その後に参加した解剖実習でもトム・マイヤーズ氏を昔から知っている複数の方々からの「アナトミートレインズのラインはあくまでもトム・マイヤーズ氏が創作した”ゲーム”である」、との証言も得ています。まあ、このブログ読者の方々でいまだに信じている人はいないでしょうが。ちなみにアナトミートレインズのラインよりももっと”ふさわしい”ラインどり過去のブログ(「ファシアとその繋がり」シリーズ)で紹介しています。それは以前ジュリアン・ベーカー氏が解剖実習で示してくれたものであったり、またジュリアンの著書「ボーエン・アンラベルド」でも紹介されている筋肉とファシアのつながりです。

当時の解剖実習の中でジュリアンがロバート・シュライプ氏という今でもファシア界の超有名人のYoutube動画(「Fascia research」というドイツで放送された番組)を紹介し、それに大変感銘を受け、日本語字幕をつけて公開しました。残念ながら2年ぐらい公開した後に著作権法違反で削除されてしまいましたが、全部で6000人ぐらいの方々が見てくださって、多く方々からメールやコメントをいただきました。たぶんこの動画が日本の「ファシアブーム」のきっかけになったと自負しています。

ドイツの番組「fascia research」からのスクショ

またファシアを勉強していくにつれ、もう一人のファシア界の有名人ギル・ヘッドリー氏のことも知り、インテグラル・アナトミーシリーズの日本語字幕をつけたのは2015年ぐらいだったでしょうか。当時のブログ読者さん2人の助けも借り、3ヶ月ぐらいかかって全部日本語字幕をつけました。まだ見たことがない人がいたら、是非一度は全部見てみると良いと思います。(Youtube上で私達が作成した日本語字幕を表示させることができます。)


そうしてファシアをどんどん勉強していき、またブログのコメントも多く寄せられ、私も毎日が勉強していて楽しかったのを覚えています。ただファシアを勉強しつつも常に頭の片隅にあったことがありました。それは「Fascia in Sport and Movement」の本のある章の著者イーヤル・レダマン氏のことでした。その章の中で「ストレッチがいかに皆が思っているほどの効果がないか」を説明してあり、「ストレッチ=いいことづくめ、絶対に皆がやるべき」と思っていた私にはショックでした。そこでEyal Ledermanでググって最初に見つかった「The myth of core stability」には大大大ショックをうけ、すぐにLederman氏の許可もとって「体幹トレーニング神話」としてブログで紹介しました(リンク)。他にも今でも私の治療方針の一つの理論となっている「プロセスアプローチ」(リンク)「PSBモデルからの脱却」(リンク)もブログで紹介しました。まだ読んでいない人がいたら絶対に読むべき論文です。

上の写真はEyalの本ですが、これらは熟読しまくりでした。いくつかの内容はブログでも扱いました。その一つが「ストレッチの是非」シリーズで、めちゃくちゃ面白いです(リンク)。上の3冊の日本語訳の許可をEyalに聞いたところ、出版社が権利を持っているとのこと。そして出版社はある程度実績のある翻訳者じゃないと許可をだせないとのことで断念しました。治療家なら絶対に読むべき3冊だと思います。

「ストレッチが意外と皆が思っているほどの効果がない」以外で衝撃をうけたのが、Eyalの本の中で何度も繰り返し述べられてきた「passive treatment(患者が受け身の治療)、いわゆる徒手療法は身体的影響がかなり少ない」、ということでした。つまり「能動的に動く」ことで体は治っていくのであり、徒手療法家がやっていることは患者にはほとんど身体的影響を与えていない、とする説は何度も自分の頭の中で消化していきました。そして「痛みとは何?」につながり、そこで知り合ったのが「Explain pain」をはじめとするNoi Groupの本でした。これは「痛みについて勉強しなおす」シリーズですごく詳しく紹介しています。(リンク)

特に痛みに悩む患者さんたちにもぜひ知ってもらいたい内容として「痛みと戦う方々への有益な情報」(リンク)をブログでとりあげました。それはDavid Butlerのyoutubeでシェアされていた講義を詳細に紹介したものです。また上の写真の本の「Explain pain supercharged」の中で紹介されていた「痛みの治療に役立つ77ナゲット」を私なりにインフォグラフィックで紹介したブログは永久保存版だと思います。何度も読み返すと良いと思います。

こうして

ファシア(治療界で長く見過ごされてきた!)

Eyal Ledermanの論文と本(治療業界は嘘・神話まみれ!)

痛みの科学(痛みは抹消からおこるだけではない!)

ということを勉強していくにつれ、実は鍼灸治療や整体系のテクニックはなんの科学的根拠もなければ、効果のエビデンスもないということに気づいていきました。その頃によく貪り読んでいたのがPaul Ingrahamの

というブログでした。その中からも多くの話題をこのブログでも取り上げてきました。真面目にエビデンスをちゃんと勉強しておかないと、自分が良かれと思って患者さんにやっていることが実は効果がない、ということに気付かされた時期でもありました。

そうこうしているうちにコロナが到来。ちょうどその頃にBen CormacとAdam MeakensのBetter Clinician Project(リンク)というウェビナーが始まり、ロックダウン中で暇だったのでpainscience.comのブログ記事とBCPで勉強するという日々が続きました。BenとAdamは理学療法界では有名な「アンチ徒手療法」で(笑)、整体、鍼、マッサージ、モビリなどの手技は一時的な鎮痛効果しかない、として徹底的に批判しています。そしてもっとエビデンス上効果のあることを患者にすべきだ、ということ常に言っています。私もそれには大賛成です。

BCPで学んで一番印象的だったのは、患者の予後。各種骨格筋の痛みが平均どれぐらいかかって治るのかを認識することは非常に重要だと思いました。

非特異性腰痛 6週間(約88%の人が6週間でよくなる)
坐骨神経痛 4ヶ月から12ヶ月
テニス肘 6ヶ月から24ヶ月
膝痛 42ヶ月
足底筋膜炎 6ヶ月から12ヶ月
肩峰下肩関節痛 3ヶ月から6ヶ月
頚椎根症 4ヶ月から6ヶ月
外側足関節捻挫 グレードによって様々(数週間から6ヶ月)
50肩 12ヶ月から42ヶ月(平均30ヶ月)

Better clinician projectの中で説明されていたものの中から引用



多くの徒手療法家達は「俺は腰痛(その他なんでもいい)なんて数回で治せる!」と豪語していると思いますが、本当に治っているのでしょうか?毎週通ってきてくれる患者さんの

「前回の後、数日調子よかったのですがまたつらくなってきました・・・」

という言葉の真意をちゃんと捉えてないのではないでしょうか?しかもその「数日調子よかった」という言葉はちょっと曖昧にというか、お世辞気味に言っている可能性も否定できません。よくよく聞いてみると楽だったのは翌日ぐらいまで、ということもよくあるはず。で、そう言う患者さんたちのカルテを見返してみると、半年、1年、2年と通ってきている人達は少なくないのでは?それって治っているんかいな?(笑)

知人の治療師は「俺の言うとおり治療をうけて、言いつけを守れば(栄養など)3回から5回で治る!」とよく豪語していましたが、ならその人が治療院をやっている地域から腰痛患者は数年で消えてしまうはず。彼はきっとなぜ患者が戻ってくるのかの真意をよく理解していないのでしょう。そしてそういう治療家は「レジリエンス」「セルフエフィカシー」をよく理解していないのではないでしょうか?(今回はその説明は省略しますが別ブログで患者さん向けに書く予定です。)

ところでコロナのロックダウン中、イギリスでは鍼灸師・マッサージ師は働くことは禁止されました。全部で合計半年ぐらいは働いてなかったと思います。その時にはじめて認識したのが、それまでは鍼灸師マッサージ師は”医療の一端”を担っていると思ってきましたが、それは嘘。コロナに関して一切何もできなかった自分に無力さを感じたのと同時に、フェイスブックで「コロナはお灸で治る!」「鍼灸はコロナを予防する!」と自慢していたバカな日本人鍼灸師達とは縁を切りました。ロンドンにもバカな日本人治療家がいて、そいつも「ロングコビッド(コロナの後遺症)も治ります!」と宣伝していて、相変わらずバカ(動きもしない関節を動くと称して、痛みや病気はその歪みが原因だとし、患者を延々と通わすことで有名、笑)だなあ・・・と思ったのを覚えています(笑)。

で、今年(2023年)になってからはBCPから派生して、他の理学療法士達のウェビナーで勉強することが多くなりました。イギリスの理学療法士は一部、肩なら肩、膝なら膝、という専門の理学療法士達がいて、彼らのウェビナーをHDPN(リンク)Physio-network(リンク)で勉強する日々が続いています。

そこで認識したのが、「自分は骨格筋痛の治療をメインとして25年働いてきたのに、なにも整形外科的なことをわかっていないし、勉強してこなかった」です。

例えば膝が痛いと訴える患者が来たとします。以前の私ならほとんどが大腿四頭筋の緊張、もしくはトリガーポイントが原因の膝の痛みで、大腿四頭筋をマッサージしたり、鍼を打ったりしたら治る、と思っていましたし、そう患者さんに説明していました。しかしイギリス人理学療法士達のウェビナーで勉強していくと、そう単純なことではないのはあきらか。

まあ、膝痛といってもいろいろあってトリガー一択だと、患者への予後の説明、どのようなリハがいいのか、などの説明が十分にできないということを認識しました。上で紹介した平均的膝痛が治る期間(42ヶ月!)を考えると果たして何年も膝痛で患者を通わせることが、「社会人として」良いことでしょうか?えっ?何?俺なら数回で治せるわい!って?

なら、ちゃんとデータだして論文書けよ!(笑)


骨格筋痛以外にも鍼灸師や整体師なら内臓の病気の治療もできると豪語する人達も多いと思います、っていうか彼らのウェブサイトにはそう書いてあります。まあエビデンスがゼロなのは当たり前ですが(笑)、ならお前ら自分が病気にかかった時、自分が鍼灸整体で飯を食わせている家族が病気にかかった時、医者にかかるなよ!マジで!って思っています。

なんで徒手療法家達は「〇〇が治る!よくなる!」とかって言いたくなるのでしょうか?整形外科学だけでなく、内科学などの医学をちゃんと勉強しての発言でしょうか?お前らなあ、患者さん達が訴えてこないから普段から偉そうに患者さんの前でふんぞりかえってるんだろ!って思います(笑)。もし私が悪人だったら、悪徳弁護士と組んで全国の鍼灸院、整体院、接骨院に通っている患者さんが本当に治っているのか、本来してはいけない診断をされていないか、違法保険請求をしていないか、エビデンスのない治療で治る!と言われていないか、などで治療家達を訴えることをします。多分、結構儲かると思います(笑)。

普段から「治る!」「治す!」とか言っている治療家達は医者になって、それでも徒手療法のほうが西洋医学よりも各種病気や痛みに効果的!というのであれば、そうするべきだと思っています。コロナで私が感じた無力感を同じように感じた人で、医師になるための時間とお金と努力がかけられないというのであれば、少しでも人のためになれるよう看護師や理学療法士などのパラメディカルの資格を取るべき。もしくは今の私のように、医学の知識は頭の片隅におきつつもあくまでも患者さんの、いやクライアントのQOLを高めるようなマッサージ、クライアントが元気になれる、疲れやストレスが少し軽減されるようなマッサージに特化すべきだと思っています。もちろん、ほとんどの徒手療法家達は私には賛同できないでしょうし、そういう人達を批判はしません。ただ私がお金に困ってどうしようもなくなったら、悪徳弁護士と組んで「例の」悪いことをするかもしれませんが(笑)。


ってな具合でだらだらとこのブログのまとめ的なことを書いてきましたが、もし最後まで読んでくれた人がいたら、改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

まあロンドンで21年半、その間ピラティスやジャイロトニックの資格も取ったり、頭蓋仙骨療法や内臓マニピュレーションのコースを取ったり(どっちもインチキだと思いますが、笑)、解剖実習には8年も参加したり、とかでいろいろ楽しかったです。

このブログで一人でもエビデンス重視、科学的思考で考えて正しい「手法」で働く徒手療法家ができていたら嬉しいです。

それではさようなら。

倉野幸男

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