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家から家へ

11月30日。
この日は購入したマンションの引き渡し日だった。

一通りの手続きを終えたのち、新しい住所の報告を兼ねて、実家の両親にメッセージを送った。

マンションの引き渡し完了しました。
今日からここがマイホームだよ!
新しい住所は……です。

すると母からこんな返信が来た。

お疲れさま、マイホームおめでとう!
これから引っ越し準備だね。
偶然にも今日こちらは、おばあちゃんちの売却が完了しました。
お互い引き渡しお疲れさまですね。

”おばあちゃんち”というのは、母の実家のことだ。
祖父が十数年前に亡くなり祖母がひとりで暮らしていたのだが、その祖母も数年前に高齢者向けマンションに入居し、ずっと空き家になっていた。
今年に入ってからもう売ろうと手続きを進めていたらしいのだが、遂に今日、売却が完了したのだという。

このおばあちゃんちは、わたしが幼少期に育った家でもあった。
共働きの両親に代わり、母方の祖父母は朝から夜までわたしの面倒を見てくれた。
そんな日々が、わたしがひとりで鍵を開けてお留守番できるようになる9歳まで続いた。
だからこのおばあちゃんちは、わたしにとって第2の実家同然なのだった。

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実家同然のおばあちゃんちが他者へ引き渡されたのと同じときに、これからの人生を過ごすマイホームを他者から引き継ぐ。
11月30日。
偶然とは言え、なんとも印象的な日になった。

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こんな偶然があると、どうしても”家”というものに思いを馳せてしまう。
思えばたくさんの家に住んできた。
岡山で5軒、札幌で3軒、大阪で3軒、福岡の今の家、そしてもうすぐ引っ越すマイホーム。
どの家にも、楽しかったりつらかったりした思い出がある。

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『置かれた場所で咲きなさい』

と言う言葉があるが、わたしはあまりそうは思わない。
どちらかというとわたしは

『置かれた場所はそれはまあそれとして、咲きたい場所は自分で見つけなさい』

という考えで生きてきた気がする。
わたしの家遍歴は、咲きたい場所を見つけるまでの記録とも言えるだろう。

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きっと毎年11月30日になると、わたしは住んできた家のことを考える。
そのときに「最後の家がここで良かったな」と思えていたらいいなと思う。








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(余談。親の実家のこと、つい”おばあちゃんち”って言っちゃうんですけど、普通におじいちゃんもいたし、なんならきっと家主はおじいちゃんなんですよね。なのにどうしても”おばあちゃんち”って言ってしまう。不思議。)



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