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ニューイヤー

23:30。
蕎麦湯と蕎麦が食卓に並び、家族が集まる。
「いただきます」
テレビは消えている。会話はない。
厳かな空気の中、蕎麦を啜る音だけが鳴り響く。
23:45。
テレビをつけ、カウントダウン用意。
携帯をいじりながらSNSに並ぶ文字や写真を眺める。
今年の反省、来年の目標、良いお年を。
そんな言葉がキラキラした写真と共に飾られている。
23:59。
そろそろかなと思いながらSNSを見続ける。
「5!4!3!…」
テレビからカウントダウンの声が聞こえた。
携帯から目を離す。
「ハッピーニューイヤー!」
もう画面はキラキラしていた。
家族であけましておめでとうを言い合う。家族は各々の部屋へ戻り、私は1人テレビを見続けた。唯一深夜までテレビを見ることが許される日。逃すわけにはいかない。
1:00。
既に目が虚ろ状態に。
寝落ち寸前でテレビと照明を消してリビングを去る。部屋に着いたら、明かりはつけずにベッドへダイブ。いつ寝たのかは記憶がない。気づけば朝日は昇ってる。

何も普段と大きくは変わらない。
夜食が食べれて、夜更かしできて、次の日が来ればいつもより少しだけ豪華な朝ごはん(又の名をおせちと呼ぶ)が食べられるだけ。
たったそれだけ。
それでも私には特別だった。
少しだけ、贅沢。

そんな年越しはもう来ない。
夜食の背徳感も夜ふかしの優越感も豪華な朝ごはんの特別感も何もかもが消えた。
もう二度と、戻れない。

ピコン

スマホの通知が鳴る。
家族からのあけましておめでとうメール。
心の中でおめでとうと呟き、スマホを裏向けにした。

そしてすぐ、目の前のパソコンに目を戻す。
デスクには夜食で食べたカップ麺の残骸。
流石に夜通しはキツいな。
カタカタと作業を始める。

しばらくしてふと窓の外に目を移す。
夜明け前だ、もう少しで日が昇るな。
グッと背伸びをし、肩を動かした。
肩はもう固まっていて、なかなか肩甲骨がうまく回せない。着実に歳を取っていることを実感する。
そしてあらかじめコンビニで買っておいたおにぎりとお茶に手を伸ばした。もう少し後の朝ごはん用にと思っていたけどもういいや、今食べてしまおう。

また新しい1日が始まった。

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