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[読書]世界インフレの謎 渡辺努

日本でもようやく値上げが始まっている。食料品メーカーを中心に、一斉に数百品目の値上げの予告が出ている。

この本は、今回の世界的なインフレについて、その原因を探りつつ、なぜ経済学者がインフレを「一時的なもの」と見誤ることになったのか、今回のインフレが過去とどのように異なっているのか、というテーマを掘り下げつつ、その過程で、そもそもインフレとは、という根本的な問いについて解説した本で、いかにもタイムリーなものである。

また、日本では、各国の中央銀行と異なり、インフレの程度はそれほど進行していない、という事情についても記載している。但し、冒頭に書いた通り、徐々にではあるが、値上げに対する抵抗感がなくなっている中、今後は企業側からの要請で価格が上がる、ということが発生していくであろう、ということも述べられている。

思うに、冷戦終結後、ずっと推し進められてきたグローバル化が初めてぶつかった壁が今回のパンデミックである。その最中に起こったロシアによるウクライナ侵攻も、グローバル化への疑問符を投げかけるものである。

これまでインフレが抑えられており、その結果として比較的低金利でいられたのも、グローバル化により、世界の中で価格が低い国で生産する、ということがずっと進展してきた結果であろう。

パンデミックで中国やインドにおける生産が過去と同様にはできない(或いはできない可能性がある)ことが判明し、グローバル企業は、製造業にと止まらず、私が働く金融業界においても、グローバル戦略を見直す契機になっている。要は、労働コストが低いところで製造する、という単純な図式ではなくなっていく、ということだろう。地政学リスクについても、これまで以上に意識していく必要がある。

本書の中でも、米国における「Great Resignation」について触れているが、私が働く外資系金融業でも、米国を初めてとして世界中で退職希望者が多いようだ。出社をしないで働く中、会社への帰属意識が低くなり、また、遠距離で働くことに慣れてしまった従業員は、(リモートであり、面接等も割合フリーにできることもあり)自由に職を変える。米国における給与水準が下がらない(その結果インフレが鎮静化しない)要因もこの変にありそうだ。

日本にとっては(一時的にかも知れないが)、グローバル化の「後退」と「円安」によるコスト低下により、仕事が改めて戻ってくるチャンスかもしれない。そうなれば、徐々にではあるが、賃金も上昇するのでは?と期待もするところである・・・。


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