#73 50回に1回、飲み屋で出会うええこと言うおっさん
店主のことをちゃん付けする常連は昔話が好き
「俺らの頃はさぁ・・・」
この出だしで面白くなる確率は1割もない。
本人は自信満々に面白話さまっせ!って感じがだるい。
でも絶対に聞く。これからはちゃんと聞く。
「欲なんか満たすな」
狭いカウンターで隣になったおっさんは小洒落たシャツを着ていた。
店主とこれからどうしようかなぁと私の人生相談をしていた。
自分でお店を出した人が言うことは
「好きなことしたらいい!!」
この聞き飽きたことを聞きにきたのだ。
「時間はあるのに動けないんですよねぇ」
「やる気はねぇ自分でどうにかするしかないなぁ」
と会話していると小洒落たおっさんが
「今の若い人は難しいよな」
と話しかけてきた。
内心、きたきた!と心躍った。
「なんでですか?」
「俺らの若い頃はさぁ」
やばい、出だしがやばい。
また面白くない長話が始まる。
逆にここで「いや、よくあるおっさんのダル絡み出だしやないかい!」と突っ込んで話をそらそうとも考えた。
「俺らの若い頃はさぁ、欲を満たすのに必死だったんだよ。
スマホもねぇから娯楽は限られるんだよ。てか娯楽するほど裕福じゃなかった。
飯食うのに必死でさ。君は飯はなんとなく食えてるだろ?ほんでオナニーもすん
だろ?」
こういった場での下ネタはゆるそう。
「します」
「AV見るのも段階が必要でさ、今と違ってすぐスマホで見れるわけじゃない。
俺なんかはさ、学生の時はさ、あ、まぁこれはいいや。
とにかく、頑張りたいなら欲を満たさないってこと」
「あぁ〜確かに、Youtubeとか漫画とかでその時の軽い欲みたいなのも今では簡単
に得られてしまうからエネルギーが余計なことに使われちゃうんですよね」
「ん?どゆこと?」
「いや!なんでもないです」
「頑張れよ!」
「あざす!」
おっさんはそう言って食い差しの焼き鳥をくれた。
が、丁重にお断りして返した。
スマホを見ている時間減らせばええだけ。
スマホを触っている時は誰も幸せではない。