#30 どうかそのまま
新大阪駅に着いて車両を降りる。
活気のあるどんよりさで人を避けたくなる。
ホームで立ち止まって窓から見える狭い空を眺め行列がなくなるのを待つ。
人が少なくなってから階段を降りる。
自由席車両から在来線乗り換え口は遠い。
縦横無尽に行き交う人の波を接触せずに通り抜ける。
どこで習得したのかわからないこれは日本人だからか。
改札を前にして頭を回転させる。
歩く速度・ルート・人の流れを見てどの改札かを選ぶ。
集中力を高め、耳にさしていたイヤホンからは何の音も出ていない気がする。
私の左前をスーツの男性が歩く。左なし。
私の右には極小バックの女性が歩く。右なし。
正面の改札には女性が乗車券を取り出し改札まであと1歩。
この女性に続けば歩みを止めることなく改札を通れる。
人生は思い通りにならない。
陳腐な言葉は忘れてしまう。
想定よりも遅く女性が改札に乗車券を差し込んだ。
それにより私は2歩ほど半歩で歩いた。
改札を抜け、2歩進むと女性が何かを思い出したように振り返る。
すぐ後ろにいた私とぶつかりそうになる。おっと良い香り。
嗅いでなどいない、不可抗力である。
振り返るとタッパのある男がいてさぞかし驚いたことだろう。
女性は咄嗟に両手を握り、胸の前で固める。
そこで気づいた。女性の後方には二人の連れと思われる女性が立って手には乗車券がある。なるほど、私の前の女性は出てきたはずの乗車券を撮り忘れていたのだろう。連れがいるなら私が出しゃばる必要がない。自分の乗車券を確認してすぐにそこから立ち去った。
今思えば改札の前で少し頓挫していたその女性。
普段からあまり新幹線を利用しない人なら、改札を抜ける瞬間は不安になる。
罪ではないのにゲートで止められる罪悪感。そんな不安を押し除け彼女は改札に挑んだ。かわいい。抜けれたのも束の間、乗車券がない。焦る。かわいい。
慣れた手つきは可愛くないのだ。うぶなまま。どうかそのまま。