赤い石
金星人の兄弟の話をしよう。
私が出会った宇宙人の話をするのなら、まず最初に彼らのことを話すべきだと思う。
ある夜、私は2人の金星人に連れ出された。
布を纏ったような服を着てドレッドみたいな髪型のその2人は、まるで16歳と20歳くらいの兄弟に見えたが、実際の年齢はわからない。
最初に連れて行かれたのは夜のデパートの屋上に似た、楽しそうな場所だった。
ここはまさに例の、質感が違う鮮やかな世界。
私がいつも「またここに来れた」と思う世界だ。
この世界は地面も独特で、ゴム質のような、密度の濃い粘土質のような、硬くも柔らかくもない材質になっていて赤や緑の色がついていることも多い。
その場所で遊びながら、兄の方が様々な宇宙のことを教えてくれた。
すべり台を滑って勢いよく地面に降りると、足元で色とりどりの砂と光がスパークした。まるで花火みたいだった。
その光はしばらく空間に線を描いて留まり続けた。
次から次へと驚くような情報を話す兄に対して、弟はコーヒーカップの乗り物の中で、ただ私をじっと観察していた。
正直あまり好意的な視線ではなかったが、兄は弟の態度にも、話についていくのがやっとの私にもお構いなしで話し続けた。
次に私たちはどこかの山頂にいた。
これはまさに「次の瞬間には山頂にいた」ということ。テレポーテーションというやつだ。
山道もやはり不思議な粘土質のような、つるりとした地面だった。
スタート地点が山頂なので、私たちはひたすら山道を下っていく。
夜の山の中で明かりもないのに、景色はモノクロームにはっきり見ることができた。
いつかテレビで見た「夜の猫の目の見え方」によく似ている。
歩きながら、兄は宇宙だけではなく地球の秘密についても話してくれた。
水の成り立ちや植物のシステムについてのこと、自然界と人間の感情についての秘密...。
明け方、当然のように彼らは私を「かつての実家」へ送り届けた。
家族はみんな寝静まったままだ。
玄関横の細長い曇りガラスを縁取る唐草の飾りが懐かしい。その向こうでは、朝が始まりかけていた。
閉まりゆくドアの向こうで、初めて弟が口を開いた。
「あんなにベラベラ喋っちゃって、大丈夫なのかよ」
その声は明らかに不満を含み、兄を咎めていた。
ところが兄の方は飄々とした声で
「いいんだよ。彼女は伝える人だからね」
と言ったのだ。
目が覚めると、ほとんどの情報を夢の世界に置いてきてしまったことに気づいて愕然とした。
こうなることを弟はわかっていたんだと思う。
そして思うのが、きっと兄もわかっていたのだろう。
その後、私は一枚の絵を描いた。金星人の兄弟の絵だ。
この中に唯一覚えているエピソードを描いた。
それはあの山道を下りながら兄が教えてくれたこと。
「言葉は石に変えることができる。例えば...ほら」
私を振り返った兄は、手のひらにとても美しい赤い石を出現させたのだ。
最近アンダラクリスタルという天然ガラスの存在を知ったのだが、あれはまさに兄が見せてくれた石の鮮やかさと輝きで、赤いアンダラクリスタルを見ると懐かしい気持ちになる。
そうだ、確か彼は同じ言葉でも鮮やかさが変わることも見せてくれた。
口先だけの言葉と、心から発した言葉。
前者は灰色に近いくすんだ赤だったので、兄が最初に出現させて見せてくれたのは後者の石だったのだろう。
彼がどんな言葉を赤い石に変えたのかはわからない。
だけど「愛」とか「愛してる」だったんじゃないかと、なんとなく思っている。