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【展示作品紹介③】13年かけて完成。作家こだわりの「柚子の木」展示します。

みなさん、こんばんは。
2024年9月開催「生誕120年 長谷川潾二郎展『ひっそりと、ささやかに。あの日の先に』」では、潾二郎の「現物を前にしないと描かない(描けない)」制作姿勢を語る上で欠かせない「柚子の木」(1970~1983年)も展示します。

13年の歳月をかけて完成させた「柚子の木」1970~1983年

長谷川潾二郎といえば片方の髭のない「猫」が人気ですが、いやいや、この「柚子の木」のエピソードも相当にすばらしいです。求龍堂から発売されている画文集「静かな奇譚」から一部を引用します。
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土について
 岩井氏を訪問した折、私は「柚子の木と小鳥の絵が、約束から九年経っても未完である」理由について説明しようとしたが誰も聞いていなかった。人々は笑いながら、あきれたように私の顔を見つめるのだった。私が言いたかったのは、次の通りである。

 あの画の中で仕上がっている部分、柚子の木と背景の影のところはまずまずの出来だが、これがよりよく生きるためには下半分の土の部分が私の思う通りに、よい色で塗られなくてはならない。そのためには理想的な本物の土を先ず見なくてはならない。私が本物の土を見て「素晴らしい。何という美しい土の色だ」と感動しなければ、何事も始まらないと思う。

 理想的な土を見るには次の条件が必要だった。四月末から五月中旬までの間で、晴天が二、三日続いた日である。その日を逃したら来年まで待たなくてはならないのだ。雨の多い年は駄目だし、植木の手入れをして、庭を整備しておかなくてはならない。

 五月の土の色と、七月の土の色は、まったく異なっている。土は周囲の雰囲気で、その表情を変える。晴天が続いて、日光が明るく照りつけても、七月の土は、五月の土ではない。新緑や爽やかな風や、明るい輝きの中で、五月の土は私が理想とする晴々とした明るい表情になる。濃い緑やあつい空気などに囲まれた七月の土は、やや重苦しい表情になる。(後略)

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文中に登場する岩井氏とは、岩井宏方さんのことで、長谷川潾二郎の熱心なコレクターでした。
焦らず、時を惜しまず、作家が13年の歳月をかけて表現せずにはいられなかった土の美しさ。ぜひ会場でご覧ください。
入場無料です。
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生誕120年 長谷川潾二郎展 ~ひっそりと、ささやかに。あの日の先に
会期:2024年9月22日(日・祝)~9月30日(月) 
▶会期中無休 
▶午前10時~午後6時(最終日午後4時まで)  
▶入場無料 (販売なし展示のみ)
▶場所:鈴木美術画廊  
 東京都中央区銀座1丁目13-4大和銀座ビル(銀座一丁目駅 徒歩3分)
▶TEL.03-3567-1114
▶主催:長谷川潾二郎 愛好家

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