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展覧会をひらくということ

 今回の「生誕120年 長谷川潾二郎展 ひっそりと、ささやかに。あの日の先に」では、先着順ではありますが、ご希望の方に図録を差し上げます。先着順といっても1,000部刷りますので、関係各所に事前に配布しても、かなりの確率でお渡しできるのではないかと思っています。
 一体、なんでそんなことをやるの!?と疑問に思われるかもしれませんので(実際よく訊かれます)すこし、思いをお伝えします。

 わたしが長谷川潾二郎の画に出合ったのは、何気なく入った画廊の入札会ででした。そのときの作品が、この《毛糸》(1952)です。

明るくて、かわいくて、愛おしい毛糸たち

 会場の2階奥の壁、しかも入口から見えないところにかかっていました。毛糸がきれいで明るくて、好ましい。けど、それ以上になんだか気になる。という感じでした。

 宮城県美術館の回顧展(2010年)に足を運んでいた夫は「長谷川潾二郎の作品が販売されているなんて珍しいなぁ」と思ったそうです。わたしは全く知らなかったので、その場で夫に教えられ《猫》の画像をスマホで見ました。が、《猫》にはあまり心動かされず(なんか、すみません…)。

今ならこの画の良さがわかります。


 潾二郎の遅筆で寡作、ひとつの作品を完成させるのに数年から十数年かかる、というエピソードをその場で知って俄然興味が湧きました。
 2010年回顧展の画文集「静かな奇譚」は、当時の新聞切り抜きと一緒に我が家の本棚にありました(律儀で整理整頓完璧な夫に感謝)。
 これを読んでみたら潾二郎の画と文章にときめいちゃって、ときめいちゃって。

これ、最高です

朝起きて夜具をたたむ
面積が突然変わる
大が忽ち小になる
このような奇蹟に驚かずに
私達は生きている

 こんな視点持ったこともなかったので、震えました。そして画文集には、《箱》とか《紙袋》《干し魚》など「こんなもの描きます?」という日常のありふれたものが数多く掲載されていました。これがまた大変すばらしく、「当たり前の毎日」って本当はなくて、日常は奇蹟の積み重ねなんだと、改めて実感し、励まされました。ちょっと大げさに言えば、「潾二郎・前」と「潾二郎・後」の区切りが生まれるくらい、世界の見え方が変わったと思います。そして、わたしと同じく、潾二郎の画と文章を知るだけで、生きやすくなる、励まされるひとは少なからずいると確信しました。

 性格的にも経済的にも、この先、潾二郎作品を十数点持つことはありません。それならば、絵をひとつ入手したつもりで、潾二郎の世界のすばらしさを自分なりに伝える場を持ちたいと考えました。
 そう決めたら、どんどん世界が広がっていき、遺族の方、コレクターの師匠のご協力(という言葉では全く足りない…)をいただき、美術館、画廊、関係各所の温かい励まし、夫の圧倒的な理解の上、長谷川潾二郎愛好家として、ささやかな展覧会をひらくことになりました。
 心から感謝いたします。

 潾二郎作品は、熱狂的なコレクターが蒐集したのち美術館に収蔵、自治体に寄託されているものが大半です。そして当たり前といえば当たり前ですが、《猫》以外はなかなか実際に展示される機会は多くありません。
 今回は、《猫》はありませんが、個人蔵27作品を展示します。
 ぜひこの機会に長谷川潾二郎の世界をご覧いただければと思います。

▶生誕120年 長谷川潾二郎展 ~ひっそりと、ささやかに。あの日の先に
▶会期:2024年9月22日(日・祝)~9月30日(月) 
▶会期中無休 
▶午前10時~午後6時(最終日午後4時まで)  
▶入場無料 (販売なし展示のみ)
▶場所:鈴木美術画廊  東京都中央区銀座1丁目13-4大和銀座ビル
▶TEL.03-3567-1114
▶主催:長谷川潾二郎 愛好家


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