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その名前には理由があります!

  これってなんでこんな名前なんだろう? って不思議に思ったことはありませんか?
   今週は料理関係の名前を妄想します。

蓮の花

 中華料理屋さんでラーメンやチャーハンに付いてくる「レンゲ」は正確には「チリレンゲ」と言います。漢字にすればその意味がよく分かります。「散り蓮華」です。蓮華はインド原産の水生植物「蓮」の別名です。春に畑で咲くレンゲ草ではありません。

散った蓮華の花びら


 蓮華はハス科ハス属の蓮とスイレン科スイレン属の花の総称です。上の写真を見ると分るように、チリレンゲは正に「散り蓮華」です。

 チリレンゲは日本独自の呼び名で、中国では勺子(シャオズ)や湯匙(タンチー)などと呼びます。日本では汁をすくったり、チャーハンを食べたりするときに使う中華版スプーンになっていますが、中国ではもっと色々な役割を担っています。例えば、中国では器を手に持たずにテーブルに置いたまま食べます。すると、料理を口に運ぶときにポタポタと汁がたれます。そこで左手に持ったレンゲを受け皿として使います。また、テーブルで調味料をかけて自分好みの味にしたいとき、チリレンゲに料理をのせ、そこに調味料をかけます。ただし、そのままチリレンゲで料理を口に入れてはいけません。左手のチリレンゲの料理を右手に持った箸で取って口に運ぶのがマナーです。
  

鬼平さん?

鯛の駿河煮

 数年前のことですが、CS放送で吉右衛門さんの鬼平犯科帳を見ていると、思いもかけない料理が登場して驚きました。そのシーンの台詞を書き起こすと次のようなものです。
※「平蔵」は中村吉右衛門さん演じる長谷川平蔵、「忠吾」は尾美としのりさん演じる木村忠吾です。

【平蔵】 「おい忠吾! そうがつがつと喰うな! その料理はな、鯛の駿河煮と言ってな、駿河の旗本にとっちゃ懐かしい料理だ。俺もな、昔はこちらで御馳走になったもんだぞ」
【忠吾】 「ふ~ん 鯛の駿河煮にでございますか? 鯛の白焼きのようで」

平蔵】 「そうだ、その白焼きをな、出汁・溜りに酢をちょいと入れてなぁ よ~く煮込んだのがそいつだ。そんなにがつがつしねえで、ゆっくり賞味いたせ」

鬼平犯科帳 「本門寺慕雪」より

 劇中で鬼平さんが説明していますが、少し補足しておきます。駿河煮は皮付きの鯛の切り身を白焼き(素揚げのレシピも有り)にし、出し汁と溜り(醤油)、酢を合わせたもので煮ます。設定が江戸時代なので「出汁・溜りに酢」と言っていますが、現在は八方だし(出し汁を味醂、醤油、酒、塩などで味を調えた調味液)に酢を加えて作ることが多いようです。美味しいことは美味しいのですが、それほど手の込んだ料理ではありません。

鯛の皮付き切身

「駿河煮」はなぜ「駿河煮」なのか

 その昔、京・大坂の料理人は、皮付きのお造り(上方では刺身を造りという)を造る場合、「遠江(とおとうみ)に造る」と言いました。これは「皮付きの身」→「身皮」→「三河」で、三河の隣国である「遠江」と言ったのです。おそらく最初は「遠江に…ちゃうちゃう、三河(身皮)に造る」と言ってウケたのだと思います。

 皮付きの切り身の煮物は「遠江」にさらに手を加えるので、さらに隣国の「駿河」というわけです。どうやら関西人は昔から笑いに貪欲だったようです。冗談のようですが、昔の料理名にはこの手の名前がたくさんありました。
 
   おそらく大坂の料理屋では「鯛の駿河煮です」と言いながら料理を出す。→客「どこが駿河やねん?」→ 上記の説明 → 客「なんでやねん!(笑)」という一連のやり取り込みの料理名だったのでしょう。しかし京・大坂から離れれば離れるほど、その笑いが通じなくなります(客がツッこまなくなる)。そしてやがて駿河煮の料理名だけが残ったと思われます。
 ※江戸時代に「なんでやねん!」というツッこみが存在したという記録はありません。
 

駿河の郷土料理ではない

    吉右衛門さん、いや、鬼平さんは渋い笑顔で「駿河の旗本にとっちゃぁ懐かしい料理だ」とおっしゃっていましたが、駿河煮は駿河の郷土料理ではないので、特別に懐かしくはなかったはずです。

板付き蒲鉾

 竹輪と蒲鉾

 現在かまぼこと呼ばれているものの正式名称は板付き蒲鉾です。板に付くまえの蒲鉾が下のイラストです。

元祖蒲鉾

 お察しの通り、元祖である蒲鉾は、現在「竹輪」と呼ばれているものです。竹輪の本名は「竹輪蒲鉾」で、略して「蒲鉾」と呼ばれていました。
 下のイラストは植物の「蒲(がま)」の穂です。

蒲の穂

  「蒲鉾」は蒲の穂に似ていることから「がまのほ」と呼ばれていたのですが、いつしか「かまぼこ」に変化しました。
   竹輪蒲鉾しかない時はそれで良かったのですが、後に同じ原料を板の上に盛り上げた「板付き蒲鉾」が登場し大ヒットします。
    板付き蒲鉾もいつしか「蒲鉾」と略されるようになり、「(竹輪)蒲鉾」と「(板付き)蒲鉾」でややこしくなりました。その結果、竹輪蒲鉾は蒲鉾を剥奪され「竹輪」と改名されてしまいました。さぞかし無念だったことでしょう。

夜間? 薬罐!

 やかんは漢字では薬缶と書きます。以前は「罐(かん)」という旧字体を使って「薬罐 (やっかん)」と書きました。「罐」は音読みでは「かん」、訓読みでは「ほとぎ」と言います。「ほとぎ」は胴が太く口が小さい、いわゆる樽型の、液体を入れておく容器でした。用途で言えば「瓶(かめ)」と同じなのですが、「瓶」は土製の焼き物であることが絶対条件で、「罐(ほとぎ)」は樽型の形が絶対条件でした。
 当初は液体を入れておくだけだった罐ですが、薬草を煮だして薬湯を作るために使われるようになり、注ぎ口が付きます。これが「薬罐」です。時代は移り、お湯をわかすだけになっても、薬罐(やっかん)は「やかん」として使われています。

近い将来…

    料理や調理器具だけでなく、あらゆる物の名前は、その名前になった理由があります。その理由を紐解いていくといろんなことが分ります。しかし時代とともに消えていく物や、その名前の由来を知る人が絶えてしまうこともあるかも知れません。それは日常生活には何も影響がないかも知れませんが、実は大きな損失です。

  【駿河煮は駿河国(現在の静岡県)の郷土料理】と説明されたり、「やかん」が国立民族学博物館に展示されることがないように祈っています。

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