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食感オノマトペで笑顔の連鎖

   美味しい料理を食べた時、家族やお店の人に、「美味しい」と伝えていますか? 食べているその時だけでなく、何十年も経ってから「あの時のおにぎりはおいしかったなー」なんてことを親族に話すこともあるかもしれません。その時、あなたはどんな言葉で美味しさを伝えますか? 今週は食感オノマトペで笑顔を妄想します。

小野まとぺくん

オノマトペとは?

 オノマトペとは擬声語を意味するフランス語(onomatopee)で、鳴き声や人の声を描写した擬声語(ワンワン、ニャーニャー、エーンエーン等)、擬声語以外の音を表した擬音語(ドンドン、ゴロゴロ、パタパタ)、動作、事物の様態、状態を表した擬態語(キョロキョロ、ピカピカ、フワフワ)に分けられます。これからお話するのは、食感に関する主に擬態語についてです。

日本のオノマトペ

    オノマトペは日本語だけではなく世界各国の言語に見られるものですが、日本語のオノマトペは、料理を食べた時の食感を表すオノマトペ=食感オノマトペの数がずば抜けて多いという特長があります。ある調査では、日本語の食感オノマトペは445語、中国語は144語、英語やドイツ語は約100語、フランス語は227語でした。外国語に比べて日本語に食感オノマトペが多いのは偶然ではありません。

バラエティに富む日本料理

    日本には四季があり、日本料理は季節の食材の持ち味を引き出すことを第一とします。例えば、魚の刺身は、魚によって切る厚さや形が違います。ただ切るのではなく、その魚の味を最大に引き出す高度な技法です。刺身だけではありません、日本料理は焼く、煮る、蒸す、揚げる等の調理方法を細かく組み合わせ、繊細な調理を施すので、味と食感の組み合わせは無限だと言ってもいいでしょう。

    意識せずとも日本人の食感に対する感覚が鋭くなり、食感オノマトペがバラエティ豊かになるのも頷けます。
 

ホクホクの焼きいも

食感オノマトペ

    日本人なら日常的に使っている食感オノマトペはたくさんありますが、その食感をオノマトペを使わずに説明しようとすると、難しい上に冗長になりがちです。あなたは次のオノマトペを他の言葉で説明できますか? ①ホクホク ②サクサク ③もちもち ④もっちり ⑤とろとろ ⑥プリプリ …… 人によって表現は様々ですが、回答例を挙げておきます。 ①余分な水分がなく、熱くておいしい様子 ②適度に軽い歯ごたえで小気味よく崩れる様子 ③弾力と粘り気のある状態 ④弾力があって軟らかく、ねばりつくような食感だか歯切れは良い状態 ⑤固形物が解けて若干の粘度を保ちながら軟らかくなる状態 ⑥身が引き締まっているが、弾力性もあり、新鮮さを感じさせる状態 …… どうでしょうか。なんだか回りくどいですね。 

トロトロのクリームコロッケ

   
    こうして考えてみると、オノマトペは便利な言葉だと実感できると思います。「このエビシューマイは身が引き締まっているけど、弾力があって、新鮮さを感じさせる状態だね」とか「マシュマロって弾力があって軟らかく、ねばりつくような食感だけど歯切れはいいよね」と言うよりも、「このエビシューマイはプリプリだね」「マシュマロってもっちりしてるよね」と言った方が簡単な上に感情豊かに伝わります。

伊賀のかたやき

美味しくないオノマトペ

    美味しいオノマトペがあるのなら、当然美味しくないオノマトペもあります。「ドロドロ」「ベタベタ」「ギトギト」「ザラザラ」「ジャリジャリ」等です。音節の頭が濁音だという共通点があります。しかし、音節の頭が濁音だと必ず「美味しくない」のかと言うとそうでもありません。例外もあるのです。例えば「ジュージュー」です。美味しそうですよね。他には「ガリガリ」「バリバリ」が例外になる場合があります。大阪名物「岩おこし」や伊賀名物の「かたやき」はガリガリと、「草加せんべい」は「バリバリ」かじるのが美味しいのです。
    「ガリガリ」と「バリバリ」は日本語の食感オノマトペの繊細さを示すものでもあります。伊賀のかたやきは木槌で割ってから食べることが推奨されているぐらい堅いので「ガリガリ」です。一方、草加せんべいは堅いことは堅いのですが、木槌で割るほどではなく「バリバリ」と食べることができます。ただ「堅い」のではなく、オノマトペならどの程度堅いのかが直観的に分かります。

もちもちの桜餅(道明寺)

美味しいオノマトペの真価

   食感オノマトペは会話の中で使われることで真価を発揮します。例えば、小学校から帰った小野まとぺくんがお母さんに「今日の給食はアッツアツでホックホクだった! 」と言ったとしましょう。その時まとぺくんは、ただ「今日の給食おいしかった!」と言うよりも感情が豊かで、身振り手振りでニコニコしながら話したはずです。
 そうです。人はおいしいものを食べる時にはニコニコしています。美味しいものを食べながら怒る人はいません。そして、おいしいものを食べたことを、一生懸命に話す時にもニコニコします。
 「ほんとにー。よかったねー」と答えるお母さんもまたニコニコしているはずです。笑顔の子どもに対して笑顔にならない親はいないのです。
 そして、その夜遅くに帰ったお父さんに、「今日の給食はアッツアツでホックホクだったんだって」と話す時にお母さんはまたニコニコします。それを聞くお父さんもニコニコするでしょう。これは食感オノマトペが生んだ笑顔の連鎖です。

サクサクのサブレ

「美味しい=幸せ」を一生懸命に伝える

 「美味しい」「美味しかった」と一生懸命に伝えることは、「私は幸せです」と伝える行為です。笑顔にならないはずがないですよね。その時、食感オノマトペはとても役に立ちます。

 手前味噌ではありますが、大阪人は日本人の中でもひときわ、食感オノマトペに長けていると思います。「あそこのタコ焼きはカリッカリのトロットロ!」これだけで笑わせます! 

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