「ブレイクスルー・ハウンド」98

 が、相手は曰く言いがたい動きでこちらの射撃を躱して工場の敷地を囲む茂みのひとつに姿を消す。まるでつむじ風だ。
「あいつはうちが相手する、ふたりはロメロのほうを頼むんだ」
 そこでスミタが目を炯々と光らせて宣言した。

 正面を達人の汎用機関銃の短連射が、右翼をゴードンのデルタ出身の精確無比な伏射による狙撃が敵を近づけさせず牽制する。
 そんな最中、スミタは右翼への接近を試みていた。
 木々を利用し、飛び出るときはまず転がり出て、三秒から五秒ほどの移動をくり返す。山岳民族の健脚は平地で生きる者の比ではない、相手にとっていつの間にかといった具合にスミタが間合いに踏み込んでいた。
 唖然となる者の頸を薙ぐや、その勢いを落下させるように、側にいた敵の腿を狙った。湾曲した刃は常人の想像以上に“伸びる”。
 刃が哭いたように、悲鳴がひびいた。
 が、一方的な攻勢もそこまでだ、その場に唯一残っていた敵、スミタを以前に圧倒した相手が脇差状のナイフで風を巻き鋭く切り込んできた。
 螺旋にナイフを動かして、スミタは攻撃を防ぐ。
 あえて逆らわず、相手の男は流れに乗るように脇へ移動した。
 剣光一閃、スミタは屈み込みながら足もとを薙ぎ払う。が、その攻撃を嘲笑うように敵は円周上に動いてこちらの背後にまわる。閃、ふり返りながら半身で横に払った。
 そこで初めて敵の表情が変わる。脇腹が血で濡れた。
「簡単な手品だ、前回よりすこし大きなククリを使ってるんだぜ」
 スミタの種明かしに、
「クソ女(アマ)、その舌、切り落としてやる」
 男が怒りを露わにし。限りなく縦に近い一閃を放ってくる。刃風一颯、スミタは真正面からそれに応じた。ああ、と怒りと驚愕が入り混じった声が男の口からもれる。

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