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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた④共産党は「大企業にムチ」で最もラディカル


「非常事態」「緊急行動」……言葉ににじむ真剣さは随一

各政党の「脱炭素」政策比較、第4弾は「ぶれない野党」(古い?)こと、日本共産党(以下、共産党)について見ていきたいと思います。

まず拝見したのは、同党ホームページの「2022参議院選挙政策」です。

まず言わせていただきたいのは、この政策集、とても詳細で共産党のマジメさが良く伝わってくるんですが、各項目ごとに長~~~い文章での記述になっているので、正直ちょっと読みづらいというか、読むのにとても時間がかかります。できれば立憲民主党や日本維新の会のような箇条書きバージョンも欲しかった……。


日本共産党のホームページより

では、肝心の中身はいかに。総論的なことが書かれている中の大見出しの一つに、共産党の方針を端的に表す次のようなフレーズがありました。

気候危機の打開――原発即時ゼロ、石炭火力からの撤退。純国産の再エネの大量普及でエネルギー自給率の向上を

非常にわかりやすいですね。立憲民主党が「一日も早く実現する」と、ある程度時間がかかることを示唆していた原発については「即ゼロ」と言い切り。また、二酸化炭素の排出量が特に大きい石炭火力からの撤退も明言。その代替策は国産再エネの大量普及、とあります。

これらの詳細については、〈「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」の実行がいよいよ待ったなしです〉とあります。気候危機対策だけで別個、一つの政策集をつくっているわけで、共産党のこの分野への気合の入りようは各党の中でも随一と言っていいかもしれません。

で、その「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」の中身はというと……これも、長い。いや、本当にマジメによく考えられていて凄いんですが、箇条書きで要点をまとめてあったら、時間がない人でも読めるんだけどなあ。

代わりに、目次の項目から抜粋して紹介します。

気候危機とよぶべき非常事態──CO2削減への思い切った緊急行動が求められている
・日本共産党の提案--省エネと再エネで、30年度までに50~60%を削減
・脱炭素、省エネ・再エネをすすめる社会システムの大改革を
・脱炭素と貧困・格差是正を二本柱にした経済・社会改革で、持続可能な成長を

ここから読み取れるのは、まず気候危機を「非常事態」と呼び、「緊急行動が求められている」と警鐘を鳴らしている時点で、相当力が入っているということです。自民や維新では気候危機改革が「経済成長のチャンス」くらいのニュアンスだったのと比べると、受け止め方の深刻さが違います。脱炭素とセットで狙うのが経済成長ではなく「貧国・格差是正」であることも、実に共産党らしいです。

また、数値目標については、30年度までにCO2を50~60%削減ですから、46%を目標にしている現政権よりも野心的な目標を掲げていることがわかります。


日本共産党のホームページより

目標未達の企業に罰則、脱炭素税アップも辞さず

具体的な政策について、いくつか抜粋していきます。まずは、再エネ普及対策。

再生可能エネルギーで発電した電力を優先的に利用する、優先利用原則を確立すること

同時に、再生可能エネルギーで発電した電力を最大限活用できる送電網などのインフラ整備が必要です

現在、送電線などの利用は原子力や石炭火力での発電が最優先になって、太陽光などの再エネに対しては出力抑制がされる事も増えてきていますが、こうしたことがないよう「再エネ最優先」の原則を確立する、ということですね。これには恐らく賛否があるでしょうが、細かい議論はここでは置いておくとして、かなり明確な再エネ普及策と言えると思います。

また、普段から特に大企業(=資本家!)に対して厳しい共産党だけに、下記のように大企業に容赦なくムチを入れるような政策も並びます。

CO₂ 排出量が大きい6つの業界、200程度の大規模事業所に、CO₂ 削減目標と計画、実施状況の公表などを「協定」として政府と締結することを義務化します。未達成の場合には課徴金を課します

新車販売を2030年までに、ガソリン車から電気自動車(EV)などゼロエミッション車(ZEV)に全面的に切り替えます。大型トラックなどのディーゼル車も早期の切り替えをすすめます。その際、自動車メーカーに下請け・関連企業にたいする社会的責任を果たさせます

CO2の排出量が多い企業には規制をかけ、未達成の場合には「課徴金」ですから、これは相当厳しいことを書いています。

自動車業界についても、かなりEVシフトを鮮明にした書き方です。しかも、EV化すれば部品メーカーの多くが不要になって切られてしまうと言われている中、「下請け、関連企業に対する社会的責任を果たさせます」とあります。そういう問題も加味して、EVだけでなく燃料電池車(FCV)などの「多様な選択肢」が必要だと主張してきた国内最大手メーカーあたりが本気で嫌がりそうな書き方と感じました。

さすが共産党、大企業には厳しいなあ、と他人事のように言っているヒマはありません。我々一般市民にも関わってきそうな「炭素税」については、下記のように記述されています。

炭素税の拡充/炭素税は、スウェーデンではCO₂ 1トン当たり約1万7000円、フランスでは約5600円を課していますが、日本では温暖化対策税で1トン当たり289円と極めて低額にとどまっています。炭素税などのカーボンプライシングは化石燃料の使用を抑制する効果があるとともに、当面の財源にもなります。炭素税は、脱炭素が完了するまでの一時的な財源ですから、脱炭素に必要な公的な事業、支援策の財源としても検討していきます

実は、日本の現在の炭素税は欧州各国に比べると相当に安い。これを諸外国レベルにまで引き上げることで炭素の排出を抑制し、脱炭素政策の財源にすることは、確かに今後必要になってくることだと思います。しかし、やっぱり自分が損するのは嫌ですから、増税と言われると複雑な心境にもなります……。まあ共産党は同じ政策集で消費税の5%への緊急減税を提案していますし、炭素税も個人というよりは企業から多くとるのかもしれませんから、トータルで見て庶民の負担が増えるかどうかはまあわからないところではあります。

ラディカルで痛みも伴う「諸刃の剣」

ということで、ここまで見てきた印象としては、共産党の脱炭素政策は、かなりラディカルかつ野心的、ということが言えると思います。同じように脱炭素政策に積極的だった立憲民主党と比べても、企業への規制や炭素税の税率アップなど、痛みを伴う政策もきっちり書いてある点で一歩先を行っていると思います。共産党というと、消費税反対の労働者の党、「共産主義革命」を目指している…などといったイメージが先行しがちですが、脱炭素分野についてかなり本気で研究して政策を練り上げてきているようで、立派なことだと思います。

しかし、ラディカルさは同時に諸刃の剣でもあり、経済分野にかなりの痛みを強いるという「スパルタ」シナリオですから、いやいや日々の暮らしを考えたらこんな過激な案は飲めないよ、と感じる人が出てくるリスクもあると思います。究極的には、共産党が考えるような格差の是正された社会をつくるのとセットにしてこそ実現可能な案と思いますが、それを実現するには相当な社会変革を必要とするでしょう。

そんなところも含めて実に共産党らしくて、日本に多様な政党が存在する意義を感じてしまいました。もし2大政党制だったらこういう尖った案は全部削られてしまいそうですから、やっぱり政党も多様な方がいいと思います。

【続きはこちら】
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑤公明党は「水素・アンモニア」志向

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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた①自民党は記述少なく、にじむ原発推進への思い
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた②立憲民主党は「2050年再エネ100%」ぶち上げ
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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑦れいわ新選組は「30年までに石炭火力全廃」言い切り【参考資料】
日本共産党ホームページより「2022参議院選挙政策
日本共産党ホームページより「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略

(タイトル写真)
UnsplashTim Fosterが撮影した写真


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